三重県外湾漁業協同組合
志摩支所 和具事業所

平成23年8月16日、17日、18日

 夏休み初日の15日、内装工事屋さんを廃業し、かねてから熱望していた漁師になるために、女房を道連れにして三重県と和歌山県の県境にある南牟婁郡紀宝町井田に移住した永井晃と、フードスタイリストでもある福本恵美夫妻宅を訪ねる。
 東京より約5時間、海のそばの高台で、今まで住んでいた家の隣に、新らたに建てた洒落たモダンな平屋に住んでいる。前庭の横のブッシュだらけの土地を切り開いて作った畑は、女房の趣味をかねての新鮮野菜の収穫が目的で、食卓を豊にさせている。都会から転入してきた好奇心旺盛な新しいタイプの漁師の誕生だ。
 もう何年経ったのだろうか、中古とはいえ、以来2艘目になると言う3階建ての洒落た大きな漁船は、漁港の中でもチョッと目立っていた。今はカツオのケンケン釣りも駄目な時期で、もっぱらサザエと岩ガキを夫婦で獲っているのだと言う。
 旦那の「アキラくん」は漁協の正会員、女房の「エミちゃん」は準会員。丘の上に建っている自宅から、ほんの5分も坂を降りてゆくともう海岸で、海岸沿いにはテトラポットが一面、ずらりと並んでいる。この一帯こそが、大きな岩ガキがびっちりと張り付いている最高の漁場なのだと言う。なんと恵まれた環境にいるのだろう。
 大きなトンカチとバールを持って潜り、叩き剥すのだと言う。夜はこの岩ガキと昔風の懐かしいグラタンが主役の小宴会となった。夕方、岩カキを石の上に載せ、トンカチで先端を叩き割り、ナイフで柱を外す作業を幸せそうに始めた「アキラくん」は、こういう仕事が大好きなのだと言う。「エミちゃん」は、「私はチョッと飽きちゃたのよねェー」と言う。新居の座敷から眺める外の景色は一面の海で「やがて月が上ってくるョ」 と言う。
 食後、旦那は漁のある日の普段通りの早い時間にさっさと就寝。「エミちゃん」と二人で遅くまで呑み話し続け、その夜の岩ガキもグラタンもシャンパンも日本酒もただただ万歳に美味であった。
「この辺では、なんにも仕事をしてないみたいで、なんだかよくわからないが人が沢山いて面白いのョ」と言っていた。

 翌朝、新宮より和具に向かう。行程約5時間。東京から新宮までの時間ほどにかかってしまった。鵜方からの50分弱に渡る半島の村々を縫ってゆく定期循環バスは、半島の日常生活の一部を覗き見する感じで興味深いものであった。

 午後4時30分、これから2泊の世話になるホテル「竹正」に、やっと到着。
 缶ビールを一気に飲み込み、大浴場へ。海沿いの燦燦たる太陽を浴びての、ひとっ風呂…と思ったのだが、残念。海は見えず、曇天で太陽の差し込まない大浴場であった。
 今夜は盆踊り大会があるという。
 漁港脇の広場の真ん中に大きな櫓(やぐら)が立ち、太鼓と唄が鳴り響いている。周囲には200人ほどの盆踊りの輪が出来ていた。簡単な振り付けで覚えやすく、一緒に踊っていると、輪の中に異様な女装の男どもがいる。
 新盆にあたる家では、一族郎党総出で仮装し、盆踊りに参加するのだという。グロで陳腐ではあったが愛嬌もある仮装だった。
 色気づいた中、高校生ぐらいの子供達が、異性を意識しながら、あちこちにたむろしている。青春の懐かしい風景があった。
 夜の11時頃になると、盆踊りの歌詞が大変卑猥なものに変わるというので楽しみにしていたのだが、方言が入るのか、全く聴き取れないものであった。

シマアジが激減してしまった
 昭和50年頃までは、まだまだ漁獲量はそれなりに多く、八丈島の岩場等で、一本釣でのシマアジを追いかける釣狂達の話を、たまには聞くことがあった。当時は千葉県の外房のものを最高級品とし、伊豆諸島の八丈島、式根島、新島等のものは「島もの」と呼び、地方からのものは「旅もの」として厳格に区別していた。外房の2キロから3キロのものには品の良い脂の乗りの旨さと香りがあったのだ。
 最近は、外房どころか他の産地からも2キロ前後の形の良い天然物が全く無いに等しいくらいに入荷が少ない。
 市場に並ぶシマアジは、ほとんど全てが養殖ものとなってしまった。この状況の中で、10年前頃より、和具から1.5キロ前後の、最適の旨さのサイズとしては少し小さめのシマアジが、初夏から秋にかけて、活けで入荷するようになった。小さめではあるが、比較的順調な和具からの入荷は最近では殊更に目立つものとなっている。

 シマアジはカンパチ、ヒラマサ、ワラサの仲間だが、これらの魚と比較しても、その品の良い脂の乗りとともに、漁獲量が極端に少ないためもあって、昔から群を抜く格の高い高級魚とされている。夏場の最高級魚の星カレイに匹敵する高値を付けるのが常であった。
 シマアジの釣りは、引きの強さの割には、口先が小さく切れやすいために、タイミングよく合わせて無事に釣り上げるのに、熟練の技を要求されると言われる。しかし最近ではほとんど獲れなくなり、プロの漁師でさえも、シマアジを釣りで追いかけることはしなくなった。
 産地でも、たまに定置網に入るものを、極力活けで泳がせて出荷するのが精一杯の状態となっている。ほとんど全ての高級魚は、近年の活け〆魚全盛の風潮に乗って、より高く売るために、可能な限り活けで出荷するのが慣わしとなってしまった。
 しかし、シマアジは築地で朝、活きているヤツを瞬間即殺させ活け〆にしても、その日の夜の時間帯を旨さのターゲットにすることが出来ない。旨さをつくりだすイノシン酸の発生に時間の掛かる魚種だからだ。
 瞬間即殺した場合、翌日の夜から翌々日の夜の時間帯に旨さを発揮させてくるようになる。だから、産地でキチンと瞬間即殺してくれさえすれば、流通経費も安価となり、消費地での熟成のための時間のロスも少なく、理想的な旨さをすぐに楽しみ味わうことが出来ることになる。

 では、和具のシマアジは、誰がどのような漁法で獲り、どのように取引され、どのようにして出荷されてくるのであろうか? 

三重県外湾漁協 志摩支所和具事業所
平成23年8月17日

 和具の地名は、鳥羽の答志島にもあるのだが、今回のシマアジの産地である和具は、志摩の英虞湾を囲むようにして、大王崎から西に伸びる先島半島の中間辺りの外海に位置したところにあった。

8月17日、朝6時半
 今夜の地元の海女さんの話を聞くための手配を「竹正」の女将さんに頼んでから、漁協へ自転車を飛ばす。
和具の漁法
 カツオのケンケン釣、小敷網漁(小型定置網)、大敷網漁(大型定置網、11月から翌年の6月まで)、一本釣、タコ網、叩き網

小敷網漁(小型の定置網)
 朝7時、市場前に大量に水揚げされた魚は、15人ほどの人手の中で選別されてゆく。朝一番の漁港は皆黙々と仕事をこなしているのだが、生気と緊張感に包まれて活気づいていた。本日は潮周りがあまり良くなく、漁が少なかったと言う。しかし魚種は多種多彩だ。

シマアジ(1キロ前後)、アカハタ、マダイ、メイチ、マコチ、グチ(光物)、ホテ(赤いメダイ風)、メンツ、サワラ、ダルメダイ、タナゴ、カマス、マタコ、アカウオ、カワハギ、カンパチ、ワラサ、シオサイフグ、マアジ、アオリイカ、アカイカ、ウルメイワシ、ゴマサバ、クロムツ、ワタリガ二、マカジキ、キワダマグロ、ホラガイ、ミル(海草)、イワミ、アカべラ、メッコ(赤)、メンツ(赤)

シマアジ
 シマアジは1キロ未満のものがほとんどで、昔は釣漁の対象にもなったのだが、今では全て定置網に少量入るだけとなっている。2キロ前後の最適最高サイズは少なく、その大きさになると皆外海に出て行ってしまうらしいが、漁獲と旨さの最盛期は9月に入ってからだと言う。来月の築地への入荷が楽しみなこととなった。

カンパチ
 500グラムから1キロ前後のカンパチ(汐っこ)が大量に定置網に入る。特に200グラム前後のアジ級のサイズのものはほとんど捨て値で、スーパーマーケットで安くに売られることになるらしい。
 形の良いのを東京に持ち帰り食してみたが、刺身でも焼いても旨みのあるものではなかった。しかし、このサイズのものが大量に獲れると言うことは、的矢湾と英虞湾を抱く志摩半島には、産卵と成長のための理想的な環境がまだまだ豊に残っているということだろう。
 漁師が水揚げした魚は検量され、魚種・サイズ別に分別された後、次々と威勢よく仲買人によって入札されてゆく。
 事務所脇にある生簀には、シマアジ、カンパチ、メイチ、タコ等の活け魚として出荷されてゆく魚が泳がされている。
 産地荷受けには生簀搭載のトラックで魚を市場へ卸すものと、浜締めにして出荷する業者とがあるのだ。

メイチ
 一見クロダイのような外観だが、表皮には石鯛のような薄い縦て縞を数本持っている。0.5から1キロ弱のサイズで、身質はしっかりと締り、旨み・甘みを持つ脂がしとりと乗った白身で、夏場が旬となる。主に大阪、名古屋方面に出荷される。キロ単価浜値で5,000円(マダイと同じ)を付ける高級魚となるが、築地にはあまり出荷されないという。
 帰京後築地で調べると、7,000円前後で売られていた。築地でもかなりの高級魚と評価されている。
 800グラムサイズのものを試してみると、活け〆の夜の状態も甘み・旨みがあり、しっとりとした食感があり、優れものであった。翌日の浜〆の状態の旨さをみてみると、身質はもう少し緩むのだが、甘み・旨みが強くなっていた。

キハダ
 41.5キロ、40キロ、46キロ、56キロの4本

マカジキ
 60キロ、38.5キロ、56キロ、51.6キロの4本
 漁場は八丈島辺りらしいが、本日の漁獲量では油代の高騰を考えると、赤字だ。

アオリイカ
 秋から冬場に大きく成長し、旨さの旬に入って行く(関西、九州方面では関東とは旬が逆になる)。今は産卵後で極少。

マダコ
 内湾性の夏ダコで、6月から8月が漁獲と旨さの旬となる。
 定置網で大量に獲れる小ゴマサバ、小ソーダガツオは捨て値で取引されるが、冷凍にしてタコ網漁の餌になる。


巻き網漁の弊害
 巻き網船が1日に5トンから10トンにも登る魚を大量に水揚げし、稚魚は破棄しているという。この大小一緒くたの大乱獲が、魚が釣れなくなっている最大の原因だと言われる。
 大型巻き網漁と大型底引き網漁による大乱獲の弊害は、日本中の漁師がその規制を農林水産庁に訴えているのが現状だが、規制措置はほとんど採られていない。乱獲規制は日本の漁業復活のための根幹をなす政策とされなくてならないはずなのに。

釣漁
 1日約40隻出港。

イサキ・メイチ・マダイ
 10時頃より釣漁船が次々と帰港し、水揚げが始まる。朝4時半出航、5時頃から釣り始める。針は2本から5本。餌はオキアミ。ほぼ全員が年金漁師なのだと言われる。ほとんどが一人船で、たまに夫婦船もあるのだが、60歳後半から70歳、80歳台の漁師も頑張っていた。
 本日の魚種はほとんどがイサキで20キロ前後の漁獲量だが、夫婦船では1日に100キロも獲る船もあると言う。メイチとマダイが少し混じり、タコ漁専門の船もある。
 今年のイサキは本来の旬である5月から6月頃が少し不漁だったのだが、今頃になって数がまとまって獲れるようになった。サイズは700グラムまでのもので、小さくなっていると言う。
 本日は少々不漁で、あまり儲けにはならなかったようだ。油代の高騰が厳しく、遠方まで出られないために、漁協の目前にある大島近辺が主漁場となる。以前はシマアジも釣れたものだが、最近は全く釣れなくなってしまった。

カツオ
 今年は7月中旬から8月上旬に上物が獲れ、築地に出荷。プリカツオと呼ばれ、太陽の上り際に釣れ、その日の夜が美味とされる。

ナマコ
 中国バブルで全国的に高騰している。漁期は12月から4月まで。
 焼きアカナマコ…焼くと中からコノワタが出てくる。サイコロに切る。塩分があり、刻みのりと醤油をかけて食す。美味。

和具漁協の正会員…昔は1,000人ほどいたが、今は約400人、準会員は150名。釣漁師は200人ほど。
 本日の出漁船は、明栄丸、小磯丸、幸久丸、暁丸(夫婦舟)、和香丸、堪喜丸、和福丸、富丸、徳栄丸、智丸(夫婦舟)、はやぶさ丸、他。

イサキ16キロ、キロ単価800円。800円×16=12,800円
油代 92円×50リットル=4,600円
12,800円−4,600円=8,200円…これでは本日は赤字なのだという。

年金漁師の収入
 年金月平均6万円、月間の漁獲高平均28万円…油代高騰により漁獲量が少ないとすぐに赤字となる。

三重県外湾漁協志摩支所和具事業所は火曜日と土曜日が休市となる。


和具のベテラン海女さんからの聞き書き…アワビとアカウニとアラメ
 17日の朝、「竹正」の女将さんにお願いしておいた海女さんとの約束の時間は夜の8時だった。さらに和具での最年長の名物海女さんとして観光名物にもなっている小料理屋「加奈」の女将さんも話に参加できるという。運がいいぞ!! 楽しみなことになった。
「加奈」は、美味と安さと女将さんの気風の良さで地元でも評判の店となっている。今夜の食事に行きたかったのだが、本日まで夏休みであった。昼間たまたま店先を自転車で通りかかると、店の横の路地で、女将さんが翌日からの仕込みの準備をしていた。
 色々話を聞いたのだが、その時、仕込み中のアカウニを、生の殻ウニ5ヶと焼き殻ウニを5ヶをお土産に頂いてしまった。今晩「竹正」でテレビの取材打ち合わせがあるので、また合えるかもしれないョと言う。

 昼間、入札の合間に安乗漁協を案内していただいた源吉水産の松田専務との会食は、6時からであったが、話が弾んであっと言う間の2時間、8時となってしまった。残念ながら途中で打ち切り、大急ぎで「竹正」へ帰館。
 夜の8時、超ベテランの海女さん二人から、志摩・鳥羽のアカウニとアワビの講義となった。

アカウニ(ムラサキウニ)
漁期…6月20日から9月14日まで。9月に入り卵が入り始めると次第に苦味が増し、3割は駄目で、10月には産卵をしてゆく。3年から4年に1回豊漁年となる。
 鳥羽と和具のウニは外海のウニで、香りがあり旨いのだが、最近は大不漁で市場には出荷されない。獲れたウニはみな海女さんが自家消費してしまう。
 棘の色によって(1)紫(2)赤(3)白の3種類がある。赤が旨い。

仕込み…ゴム付軍手で棘を素早く全てこそげ取る。口を左にしてウニを縦に立てる。包丁で殻の右側の一部を叩き割る。割った殻の穴に包丁の先を入れ、ぴんぴんと殻を欠き外しながら、穴を大きく広げる。ウニの5粒入っている。

漁場…大島近辺。昨年のアカウ二は漁獲量が少なく、身入りも悪かったが、今年は海草のアラメの新芽が多く繁殖し、新たな再生を始めているためウニの身入りが良くなっている。上から見える岩や瀬の間に生息しているウニは「ノミ」で獲る。

 昔はアワビとウニの素潜り漁で、夫婦2人、半年で、1,000万円から1,500万円、1人でも700万円から800万円獲っていたが、今では300万円位となっている。鳥羽のウニは海岸沿いのものが身入りが良い。大島近辺は近年獲れなくなってしまっていたが。今年はアラメが繁殖し始め良化している。
 8月18日、昨日頂いた生ウニと焼きウニを翌朝の朝食のおかずにし、周りのお客さんにも少しずつおすそ分けした。非常に残念だったのだが、少し苦味が発生し、甘みも少なかった。今期のウニはもう産卵が近づき、旨さの時期が終わってしまっているのだろう。

アワビ
 メタカアワビ(マダカアワビ)、メガイアワビ、クロアワビの3種類。漁期は9月15日まで
 千葉県外房と同じように、アワビはアカとクロに分類される。アカの中にはキロ単価に大きな差があるメタカアワビ(マダカアワビ)とメガイアワビが一緒に分類されている。この分類の仕方は、ほぼ全国共通なようだが、何時から何故このように分類されるようになったのだろうか?

 メタカアワビは一番深場に生息し、15メートルから20メートルの南側の瀬棚の絶壁に張り付いていることが多い。最近は極めて獲れなくなり、アワビ全体の5パーセントぐらいとなっている。
 和具の海女〜昔は300名、今は70名。40歳代6名、30歳代2名(まだ未熟で練習中)、平均年齢67歳。

◎市場に水揚げされたアワビはほとんど全て痩せていて、当店の築地での選別外のものであった。
◎ 稼動日数は半年の間で、70日位。昨年は時化が多く、24日しか潜れなかった。
◎ 昨年はアワビの大天敵であるタコが大発生し、アワビ漁に影響した。
◎ 志摩観光ホテルの注文の入り方でウニとアワビの相場が大きく変動する。サザエのキロ単価は400円くらい。

三重県外湾漁業協同組合
志摩支所安乗事業所

平成23年8月17日

 8月17日、朝7時からの安乗支所での魚の水揚げ、検量、分別、入札の見学の中で、今回築地市場の荷受け、東市の中村氏から紹介された三重漁連の大山秀人氏、和具事業所所長出口直樹氏、丸中商店取締役中村庸一氏、その他の様々な方々に、唐突に諸々のことを質問をしてゆき、様々なことを教えてもらっていった。
 その中で和具支所を中心に大王崎から安乗方面の魚も扱っている産地荷受けの(有)源吉水産専務 松田和隆さんと懇意になる。

 様々な魚の話の中で、今日定置網で水揚げされていた黒アジの話との関連で、最近では幻のように貴重な魚になってきている黄アジの話をした時、安乗アジのことを言っているのではないかと、すぐに話しに乗ってきてくれた。 今日の和具は、もう午前中の水揚げは全て終わりで、後は午後3時頃からの海女さんのアワビの水揚げがあるだけだから、それまでの2時間くらいの間、安乗まで行く気があれば案内するとの、親切な、僕にとってはもっけの幸いの話となった。
 今回の旅の目的地の一つでもあった。彼のピカピカの新車のクラウンでのドライブとなった。安乗は大王崎を横に見ながらの20分ほどの距離にあった。

 安乗は、貴重な天然クルマエビの名産地で、10数年も前から当店でも使っているものであった。だから伊勢方面の旅の時、通り過ぎる安乗の駅名を見るたびに、昔々は海賊の本拠地だったのだと以前から聞いていた話を懐かしく思い出すのが常であった。
 天然のクルマエビを追いかけると、あまりにも漁獲量が少ないために、全国の産地をかけ巡ることになるのだが、その中の名産地の一つが、宝彩海老のブランド名を持つ安乗の車海老だった。

 安乗に到着してすぐに、安乗支所の手前にある丸勢水産(有)直営の「まるせい」にて、昼食を兼ねて、さっそく活け〆の安乗アジの刺身をご馳走になった。
 安乗は快晴の盛夏そのものの暑さの中にあった。運転の松田さんには失礼して、昼から冷え冷えの生ビールと燗酒での昼食となった。しかし、ぷりぷりのアジは、あまりにもぷりぷりで旨みが無く、黄アジか黒アジか味の区別の良く判らないものであった。もったいない!!
 この「まるせい」は、「あのりフグ」の旬の時期の土・日曜日には、一日で300万円くらいの売り上げをするという。凄い!!

 松田さんに丸勢水産の照井裕之本部長を紹介される。仲の良いお二人は親友同士なのだろう。話が弾んでいた。
 調理場を見学させてもらう。店の調理人が軍手をして魚を卸しているのだが、腹中の血のかき出しには便利なものだと感心。そして食後すぐに漁港に直行。釣りアジの漁船が既に帰港していた。アジは漁師と仲買人との相対で取引されている。照井さんが受けたアジを見せてもらう。

黄アジとトラフグ
 安乗アジは高値で売れるために、漁師によって丁寧に釣漁で獲られ、最高のぴちぴちの状態で水揚げされる。冬場から春先にかけて産卵し、水温の上昇と共にともなって、4月から6月にかけて脂を乗せてゆく。
 今回は安乗漁港の岸壁で、2漁船によって水揚げされたアジを点検していった。このアジは漁協を通さず、荷受けが直接漁師と相対で買い上げていく。アジは見事に黄金色に輝き美しかった。しかし夏場の最盛期の黄アジにしては少しスマートで痩せていた。
 聞いてみると安乗の釣アジは、7月から8月の間は少し痩せて、9月から10月になると再び脂を乗せて太ってくるのだと言う。しかし、10月に入りトラフグが釣れ始めると、釣漁は値段の高いトラフグの延縄漁に移行して行くために、釣りアジの水揚げは激減してしまうと言う。だから安乗の黄アジは9月が狙い目となることになる。
 黒アジとの混成のない、純粋の黄アジだと素晴らしいのだが。9月の和具のシマアジと共に、この安乗アジも9月に入ってどのように変化するのか楽しみなものとなった。

トラフグ
 安乗はトラフグの産地としても有名で、静岡県・愛知県とも協力し、遠州灘でのフグの延縄漁の指導もしてきている。共に漁獲規制のもとでの安定供給に努めているという
 安乗の水域は栄養が豊富で、クルマエビ、トラフグの産卵場所があり、3月から4月には、フグの産卵のために、海が真っ白になる。

(安乗のウエブサイトより)
あのりフグ
「『安乗フグ』は、三重県志摩半島から伊勢湾、遠州灘にかけての沿岸地域で漁獲される、体重700グラム以上の天然トラフグである。あのりふぐとなるトラフグは、餌となるプランクトンや小魚が豊富な最適の育成環境である伊勢湾の安乗岬で春に生まれ、秋になると潮の早い外洋に出て身が引き締まる。さらに、漁業者の漁と流通の工夫により、細心の注意で取り扱われ、品質の良いものとして、市場での評価も高い。
 資源変動が極端に大きな魚種であることから、志摩市阿児町安乗地区の漁業者が、昭和59年からいち早くトラフグの資源管理型漁業に取り組み、地域内だけでなく、愛知県、静岡県のトラフグ漁業者とも協調した資源管理体制を構築している
(1)小型魚の保護(700グラム以下は再放流)
(2)漁期の制限(10月1日より 翌年2月末日)
(3)漁具の制限
(4)愛知県との操業調整
(5)稚魚放流事業
 平成15年8月に漁業者、漁協、観光協会などが一体となって、あのりふぐ協議会を設立し、あのりふぐの定義を決め、商標を取得するとともに、志摩市内に限定したあのりふぐ取扱店認定制度を確立した。
 このように地域内流通に限定することで、消費者へ確実にあのりふぐを提供する仕組みを実現することにより、魚価の向上、観光誘客など地域経済の活性化に大きく貢献している。」

安乗の漁法…巻き網漁・刺し網漁・定置網漁・素潜り漁・釣漁

(丸勢水産のウエブサイトより)
安乗の天然の宝彩海老
「安乗(あのり)地方で捕れた車海老のことを特に宝彩海老(ほうさいえび)と呼ぶようになったのは、昭和初期、安乗の漁師・片山重吉が車海老を多く捕る漁法として、絹のような細い糸を使った背丈の短い底刺し網・「宝彩網」を使いはじめたのがきっかけです。
「宝彩海老」は安乗沖の黒潮が交わる海域で育つため他の車海老よりひとまわり大きく、甘味の多い美味な車海老として珍重されています。(漁期は4月から7月末頃まで)」
日本の車海老刺し網漁の始まりだと言われる。

マサバ
 5月、6月頃から8月の終わりにかけての首折りの釣サバは、伊良湖水道の首折りサバと同じ生態系のものだが、最近では築地市場には伊良湖水道産の最高のものはもう入荷していないようだ。

アラメの乱獲
 アワビ、ウニの餌となるアラメは、乾燥すると300万円くらいの稼ぎになるため、乱獲とさらに磯焼けによる被害により激減、アワビ、ウニの激減の原因となっている。最近ではアラメは漁獲規制されるようになった。

アワビ
 昔は海岸沿いの岩場に沢山生息していたのだが、磯焼けの発生と共に激減した。最近ではテトラポットの間に大型サイズが沢山いるのだが、隙間が小さくて獲れない。大きいものは老貝になっているのではないか。丸勢水産(有)で見せてもらったアワビも、和具で見たアワビと同じように、少し痩せていた。磯焼け、アラメの減少による影響だろう。築地市場での当店の選別レベル外のものであった。
 なぜもっとたっぷりと太ったアワビが混じらないのだろうか? 餌のせいなのだろう。
 帰京してから外房の干しアワビの加工業者である「与助丸」の小川さんに電話して聞いてみると、食べる海草の違いだという言い方をした。
 外房ではカジメを豊富に食べているが、志摩ではアラメが主体となっている。そのアラメも最近は少なくなってきているようだ。

平成23年9月5日

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