桑名市、赤須賀漁協行
三重県桑名市大字赤須賀
平成20年3月22日(土)、23日(日)
内湾に生息する「ハマグリ」の復活が始まった。

ハマグリの種類と旨み
(1)ハマグリ…正式学名は「ハマグリ」・「ヤマトハマグリ」という。内湾の汽水域に生息し、柔らかく甘みがあり、最も美味なハマグリとして珍重される。江戸前鮨の貴重なネタの一つであったが、東京湾産は昭和43年に絶滅してしまい、三重県桑名・熊本県川口の一部では今でも獲られるが、漁獲量は少なく、サイズも小型のものが多い。 
(2)チョウセンハマグリ…外海に生息し、正式学名は「チョウセンハマグリ」という。「ハマグリ」と比較すると食感が少し硬めで、殻が厚く、その分、足の身肉の厚みが少し薄くなっている。甘み旨みも少し浅目で、足の先端は薄い赤色を帯びている。茨城県波崎・銚子・大洗・鹿島、千葉県旭と、九十九里から鹿島灘にかけて獲られる。「ハマグリ」が大量に獲られていた頃には、東京の高級すし店では決して扱われないものであったが、全国の「ハマグリ」が絶滅に近く、しかも適正サイズの入荷も全く無い長い年月の中で、適正サイズの漁獲も順調であったため、最高品として評価されるようになり、最高値を付けるようになった。しかし近年の資源の減少と、厳しい漁獲制限により、このチョウセンハマグリも超高値安定の状態が続いている。宮崎県の細島からも入荷し、大分県日向の大型ものは白碁石の加工原料として有名であったが今はもう獲られなくなっているという。

(3)シナハマグリ…中国から輸入されるもので、三重県四日市・津市・伊勢市の業者達によって蓄養され、出荷調整されながら通年出荷されて来る。殻はチョウセンハマグリよりは薄いが、足の身肉は痩せ気味で硬く、甘み旨みも少ないのだが、大量に輸入されて安価なため、大衆店や産地のみやげ物店などで便利に利用されている。


「ハマグリ」の復活がはじまった。

“赤須賀産”桑名の「ハマグリ」と
“木更津産”江戸前の「ハマグリ」の再登場
赤須賀産“桑名”のハマグリ

 平成20年2月3日、突如として桑名市赤須賀産名のハマグリが入荷してきた。かなり前から、「漁獲量が少なく、希少な大サイズのものは地元の料理屋で優先的に使われてしまう。その他の大半のものはサイズが小さいうちに獲ってしまい、桑名名物“ハマグリの時雨煮“の加工用となってしまう。だからサイズ的に、江戸前握りすしに最適な大きさのものは全く出荷される余地が無い。」と言う情報は伝わって来ていた。今回、4回ほど続けて入荷してきたものは、握りにするには2枚付けとなる中サイズの「ハマグリ」だが、中サイズにもかかわらず、鹿島産の大サイズのハマグリと同等の高値で、極少量入荷してきたのだった。 だからサイズと価格との比較から見ると、赤須賀産は鹿島産を遥かに越える、かなりの高値のハマグリだということになる。しかし、昭和40年代初めに絶滅してしまった東京湾内湾の江戸前のハマグリは、その後全く再生されず、東京のすし屋にとって、国産の地「ハマグリ」は、幻のハマグリの復活として強く渇望されてきていたものであった。だからこの桑名産中サイズのハマグリの登場は、僕にとっては驚きに近い喜びを感じさせるものがあった。サイズが小さく、握りすしにするには2枚付けにしなければならない程の大きさなのだが、内湾産の「ハマグリ」特有の柔らかさと、甘みと旨みの強いもので、適正サイズではないことは承知の上で、鹿島産のチョウセンハマグリの使用を止め、敢えて使うことになった。

◎注~北朝鮮の軍港内で獲られる「ハマグリ」は、輸入物の中で、唯一内湾性の「ハマグリ」なのだが、乱獲による漁獲減と経済制裁による輸入禁止によって、現在は全く入荷してこない。

木更津産“江戸前”の「ハマグリ」
 そして2月の始め、この桑名産ハマグリと並行するようにして入荷してきたのが千葉県木更津産の「ハマグリ」であった。
 木更津の中里漁協から「ハマグリ」が出荷されたというニュースの詳細は、築地市場内からではなく、不覚にも新聞紙上で知ることとなった。この木更津産の「ハマグリ」の入荷と共に桑名産の入荷は残念ながら終了していった。この突然の入荷と終了の原因はなんだったのだろうか。
「江戸前のハマグリ」と言うブランドを持つ木更津産に、漁獲量、サイズの選別の優劣、さらには価格的にも採算が合わなかったのだろうか。そのため桑名産と交替するようにして、中サイズながらも毎日途絶えることも無く継続的に入荷するようになった木更津産を、桑名産の替わりに、使用することになった。木更津産のハマグリも柔らかく、甘みのある優れたものであるが、桑名産同様サイズが小さく、中サイズものであるため、握りに使用するには、やはり2枚付けにすることになった。

朝日新聞 2008年3月24日「復活江戸前ハマグリ 東京湾で40年ほど前に姿を消したとされるハマグリの生産に、千葉県の漁業者たちが成功した。沿岸にある木更津、富津両市の干潟での試験生産を終え、今年から本格的な生産態勢に入る。『江戸前』のハマグリが、再び庶民の味になる日も遠くなさそうだ。(有山産祐美子)

 木更津市の中里漁協は、漁港から船で20分ほどの距離にある干潟でハマグリ漁を行なっている。浅瀬に浮かぶ船内には、5cmほどのつぶがどっさり。多い日には計1tほどもとれるという。永峯善次郎組合長は『何十年ぶりのハマグリ漁。とにかく感激です』
 かってハマグリはアサリやノリと並び、東京湾でとれる「江戸前」の代表格だった。それが、高度経済成長期の湾岸の埋め立てや水質悪化で激減。いまや千葉県のレッドデータブックでは「消息不明・絶滅動物」に指定されている。千葉県漁連によると、国内で現在流通しているハマグリのほとんどは、中国産の「シナハマグリ」。国内産は、1965年に1万t以上あった漁獲高が、06年には三重県産や熊本県産など計約1千tまで減っている。その国内産も約8割は、波の荒い外海の砂浜に生息する「チョウセンハマグリ」という。
 本来のハマグリは、内湾の静かな水域を好む別の種だ。とくに東京湾のようなプランクトンの多い水域で育つハマグリはチョウセンハマグリに比べて甘みが強く、身も柔らかいのが特長という。
「江戸前ハマグリの復活」プロジェクトは、東京湾沿岸にある千葉県市川市から木更津市までの11漁協のうち、02年から中里漁協が始め、04年から残りの10漁協も参加。九州・有明海に残る「江戸前」同種のハマグリの卵を、養殖先進地の台湾で人工孵化。2cmほどの稚貝に育ててから東京湾に放流した。中里漁協では06年4月に12tを放流、07年2〜12月に25tを収穫した。当初は出荷できる大きさ(4.5cm以上)まで成長するのに2年かかると見られていたが、1年程度で成長したという。そこで県漁連は今年、放流量を約6倍の120tまで増やし、市場への出荷態勢を本格化させることにした。県漁連によると、一般に流通しているハマグリの店頭価格は1kgあたり1,000〜1,300円。これに対し、江戸前ハマグリは1kg3,000〜5,000円となっており、百貨店などで販売されているという。

ハマグリの国内総漁獲量の推移
1965年…1万t以上
2006年…1,000t(内8割はチョウセンハマグリ)

木更津中里漁協の「ハマグリ」放流と収穫量
2006年4月…12t放流
2007年2月〜12月に25t収穫(2倍強の収穫となる)

千葉県木更津中里漁協専務談…「2cmから4.5cmまで成長させるのに、当初は2年の予定が、海の状態が良く、1年程度で成長してしまった。放流は海中に造られた竹柵の仕切りの中で行なわれ、1月に2回操業される。吸い物用としての拡幅21mmものと24mm×45mmものとを、全て千葉漁連を通して、蓄養場より出荷調整しながら一年中継続的に出荷している。青潮の発生による全滅の危険も予測されないわけではないが、赤潮の発生はハマグリ・アサリにとっては餌となる大量のプランクトンの発生となり、成長が早くなるわけで、漁師にとってはむしろ歓迎されることが多い。5月は大潮と干潮の差が激しく、放流海域は干上がり、畑状になっている。春先から初夏が旨さの旬となるが、5月頃に大量のヌルを吐き出すと言う。大雨で身肉が痩せることがあるが、冬場も産卵後もそれほど痩せない。卵は加熱すれば安全で夏場の抱卵期も旨い」
 冬場の産卵後もそれほど痩せないと言うことは、木更津では一年中干潟の浅い海域で栽培されているためなのだろうか。
2008年…120t放流、2009年、240t以上の収穫予定。
 この放流事業が着実に成功して行けば、「ハマグリ」漁の世界に一大変革をもたらすだけでなく、将来の東京湾内湾漁業の救世主にもなりかねないのではないだろうか。このハマグリの今後の2年生、3年生への成長も大いに期待される。

桑名市赤須賀漁協行

 かくしてテレビ等のマスコミが一斉に江戸前ハマグリの復活の喜びを報道することになった。しかし、その陰で、突如として入荷してきて、又突如として入荷がストップした桑名産のハマグリの消息はどうなってしまったのだろうか。この「ハマグリ」は、揖斐(イビ)川・長良川・木曾川の木曾三川(きそさんせん)河口の汽水域に、他県産からの放流ものではなく、「その手は桑名の焼きハマグリ」で有名な、昔から絶えることなく営々と漁獲され続けてきたものである。

桑名在来種の「ハマグリ」とは?
(1)旨さは?(2)旨さの旬は?(3)誰がどのような漁法で、(4)どのくらいのサイズのものを最高品として、(5)どのくらいの量を獲っているのだろうか?(6)出荷先はどこの市場なのだろうか?(7)生食はしているのだろうか?(8)四日市公害で代表される伊勢湾内湾で、なぜ東京湾のように絶滅せずに、営々と生存し続けることが可能だったのだろうか?
 以上の疑問解消のために、そして江戸前鮨の代表的なネタの一つでありながら、昭和40年始めに東京湾では遂に絶滅してしまった栄光の「ハマグリ」と同等の旨さを持つと言われる桑名の在来種ハマグリの再生と復活の現場を見学するために、待望の桑名市赤須賀漁協行となった。

桑名市赤須賀漁協にて
 桑名は旧東海道五十三次の宿場町と、ハマグリの時雨煮とで有名であるが、赤須賀漁協はその桑名産として有名なハマグリ、アサリ、シジミを主として漁獲し出荷する漁協であった。
 では、その赤須賀漁協とはいかなる漁協なのであろうか?
 築地市場の荷受けの紹介を通し、赤須賀漁協に電話をする。漁協の担当は伊藤氏だった。天候に恵まれ、運良く漁が行なわれた場合、日曜日の入札は午前11時から始まると言う。
 今回の予定では土曜日に桑名シティホテルにて1泊。その夜、桑名のハマグリ料理店として有名な「日の出」にて食事の予定であった。しかし「日の出」は個室となっている座敷だけの料理屋で、一人での予約は不可であった。同行者への懇願に対し、秋田清音赤須賀漁協組合長が一緒に食事をして下さるとの幸運な連絡がもたらされ、幸先の良いこととなった。午後5時頃、少し早めに「日の出」着。すぐ近くにある旧東海道の“七里の渡し”跡の見学に行く。目の前には揖斐川と長良川が堰で仕切られながら穏やかに流れている。やはり二川は、かなりの大きさの川で、その先に同じレベルの大きな木曾川が河口に向かって流れ込んでいるのだと言う。

木曾三川(きそさんせん)と困難を極めた灌漑工事
 公園の案内掲示板に木曾三川の氾濫と、困難を極めた灌漑工事の歴史が書かれていた。江戸時代、徳川幕府は薩摩藩に木曾三川の灌漑工事を命じた。薩摩藩はその工事のために2年分の藩財政予算を費やし、その工事を担当した家老以下の家臣達は、60余名の事故死者と共に、生き残った全員が工事の責任をとって切腹したと言う。その後明治政府はオランダの技師を招聘し、莫大な費用と長年月をかけて困難な灌漑工事を遂行していった。そして昭和37年の伊勢湾台風は、流域に予想外の壊滅的な被害をもたらすことになった。三川流域の人々の生活は、この氾濫との長い戦いの歴史だったのだ。そして近年猛烈な反対運動の中で完成し、運用され始めた長良川河口堰は、河口近辺の魚介類に甚大な被害を与えることになった。

秋田組合長と赤須賀漁協の変遷
 5時半、「日の出」にて秋田組合長との食事が始まった。伊藤さんが当店と僕のことを予めで調べたとのことで、同年輩同士ということが判り、打ち解けた雰囲気のもとで話が始まった。酔わない内に、大事なハマグリの話を聴かせてもらうことになった。組合長作成の資料の数々を見せてもらいながら、資料の余白に説明を書きこんでいく。
 昭和30年代に始まった高度経済成長によってもたらされた公害と環境破壊による河川の汚染汚濁、漁獲量の激減の歴史を、伊勢湾内湾と東京湾内湾とで、それぞれ異なる立場にありながら、正に同時代的に体験してきた同士であった。しかし、昭和43年に中止された東京湾のハマグリ漁に対し、赤須賀のハマグリ漁はさらに長く続いていたのには驚かされた。

赤須賀漁協のハマグリ生産量の変化
◎昭和28年から30年の年平均漁獲量…1,215t 
◎昭和30年代には3,000tを誇っていた。
◎昭和43年から47年の年平均漁獲量…2,797t
◎昭和50年代に入り、干潟の干拓化や地盤沈下に伴なう膨大な広さの干潟の消失と漁場環境の悪化で急減していった。
◎昭和60年から平成1年の年平均漁獲量…73t
◎平成7年から11年の年平均漁獲量…7t
 「長良川河口堰」の運用が始まった平成7年には過去最低の0.8tを記録し絶滅の危機を向かえることになった。この頃は一人1日10kgの漁獲制限であったが、ほとんど10kgは獲られなかった。
◎平成13年から15年の年平均漁獲量…2t未満
 人工干潟の造成による生産量の微妙な増加傾向が見られ始めた。
◎平成19年の年平均漁獲量…8t強
 15年より1日30kgに規制を増やしている。

 かっての最良期に比較すると惨憺たる状態であるが、徐々に生産量を増してきているように見える。秋田組合長は漁獲量が激減していった昭和50年頃からハマグリの再生をめざして人工栽培のための孵化、種苗生産の研究に没頭し、失敗の連続の中から徐々に徐々に、地道に成果を上げていった。だから、2006年の木更津での12t放流のハマグリが、1年で25tの収穫となり、今年は120tの放流をし、2009年には240t以上の収穫を見込んでいるということは、「ハマグリ」の世界では、画期的な出来事となっているのだ。

 伊勢湾内湾は、木曾三川の流入する遠浅の汽水域で、東京湾同様の豊饒な海であった。しかし昭和30年後半に始まった高度経済成長の下に行なわれた開発は、伊勢湾及び木曾三川河口域の漁場環境を大きく破壊し、伊勢湾最奥部にある赤須賀漁協の漁業全般にも甚大な被害を与えていった。
昭和40年までに中止された漁…イワシ・ボラ・スズキ・キス・カレイ・カマス漁
昭和50年までに中止された漁…クルマエビ・アナゴ・マダイ・クロダイ・ナマズ漁。
 これらの漁は、以後中止のままとなっている。しかし、この時期、この様な状況の中でも、「ハマグリ」漁はまだ健在であったのだが、潮流の変化と最近では川からの取水による地盤沈下が激しく、その結果膨大な広さの干潟の消失が生じ、ハマグリの生産量に大きな影響を与えることになった。そのため、各種の漁業補償を利用しての人工の干潟再生事業が積極的に行なわれ、ハマグリの再生の効果が徐々に現れて来ていると言う。

割烹料亭「日の出」のハマグリ料理
 料理が運ばれ、酒を呑み、料理を食べながらの聞き取りとなっていった。ハマグリ料理の介添えが始まる。醤油をたらさず、貝の持つ塩味だけの焼きハマグリは、竹を輪切りにした受け台の上に乗って出てきた。口元まで竹の受け台と共に持ってゆき、貝の汁共々に旨さを全て満喫する。貝の持つ塩気は少し強めであったが、身肉はふっくらと膨らみ、甘みの強いものであった。ハマグリ鍋は貝を少しずつ鍋に入れ、殻が開いてベストの食べ頃の時、取り皿に取ってくれる。片方の殻で貝柱を切り外すという便利なやり方を教えてもらい、忙しくも次々と熱々を食べてゆく。美味美味。ハマグリ雑炊も美味美味であった。ハマグリの旨みはコハク酸・グルタミン酸・グルシン等のアミノ酸系のもので、足の部位になる身肉よりも貝のエキス分にたっぷりとした旨みを含んでいる。そのエキス分の旨さを充分に活かした料理であった。
 かくしてハマグリと酒の旨さと地元の豊富な話題を楽しむことになった。次のハマグリの取材は明朝9時、秋田組合長に漁場を船で案内してもらい、11時からの入札を見学するということになった。その後、色っぽいママのいる地元のバーにて二次会、桑名の夜は充実したものとなった。

※NHK「ためしてガッテン」
…焼き蛤のおいしい作りかた…(1)1,000ccの水に16gの塩の塩水に、2時間から3時間入れハマグリの余分な塩分を取り除く。(2)蝶番を外す(3)アルミホイルでハマグリを殻ごと包み、2分30秒強火で蒸し焼き。(4)火から下ろし、40秒蒸らす。(5)ホイルを開き、汁ごと食べる。ベストの焼きハマの火入れ具合になっている。

漁場にて
22日(日) 晴天微風
 午前9時、赤須賀港より船で秋田組合長直々の航行による漁場巡りだ。晴天、微風とは言え海風は冷たく、拝借のゴムカッパが有り難かった。シジミとアサリの漁場の説明を聞きながら河口へ急ぐ。揖斐川と長良川の両方の河口に人工造成された干潟の成果の説明を受ける。漁業補償を有効に使っての干潟の再生で、着実に成果を上げていると言う。河口近辺から沖合いにかけて組合の漁船が点在する。漁場を回りながら、一人で漁をしている組合員の船に寄り添ってゆく。84歳の現役の漁師は、最高値を付ける大型サイズのハマグリ漁の名人であった。長年の経験で何処にどのサイズのハマグリがいるのかを熟知しているのだと言う。
 30歳代の漁師は組合での最若手であった。サラリーマンからのUターン組だが、大酒呑みで漁師が性に合っているのだと言う。獲ったハマグリを船上で大中小のサイズと殻の割れた貝とに選別し、4.5cm以下は海に戻す。割れた貝は船上で生のまま食べてしまうこともあると言う。

※生食のハマグリの旨さ
この桑名、木更津産の中サイズのハマグリを、レモンを絞って生食すると、その柔らかな食感と品の良い甘みは、肝の旨さと相まって、少なからぬ感動を覚えさせられることになる。日本人は、全ての魚介類を極力生食しようとする食習慣を持っているのに、こんなに美味なハマグリを、なぜ生食しないのだろうか? その理由を、10年ほど前に、徹底的に調べたことがあったのだが、確たることは判らず、結局、
(1)生のハマグリ・アサリ・シジミにはビタミンB1を破壊する酵素である「アノイリナーゼ」が存在すること。
(2)加熱することによって、その酵素を不活性化させることができること。それ故に過熱処理調理を行ない、生食をしなくなったらしい。縄文時代からの貝塚で最も多く見られる貝はハマグリであったと言われる、古代から伝わる食習慣の、危険に対処する知恵の暗黙の伝承なのだろうと言う結論となった。(※注〜ビタミンB1が欠乏すると脚気が発症する)

生息場所
 木曾三川の河口近辺で、汽水域となっている栄養豊富な水域に生息している。上流からの肥沃な砂の流入による干潟と、潮の干満での淡水と海水の混じり合いによる豊富なプランクトンの生育場所となっている。淡水の影響がないとハマグリの身肉は硬くなり、風味が悪くなると言う。肥沃な砂には蛤の成長に最適の条件が充満しているらしく、11年前に北朝鮮の「ハマグリ」と中国からの「シナハマグリ」の勉強のために訪ねた三重県漁連運営の大淀(おおいづ)貝類センターでの成果が思い出された。場長が蓄養の生存率の悪さに苦労している時、蓄養場の砂を赤須賀の砂に交換した結果、ハマグリの生存率に抜群の効果を発揮し、元気の良いハマグリはすぐに砂の中に潜りこみ、砂自体の汚れも極端に少なくなったと言う。この仕事は秋田組合長も協力したとのことで、しっかりと承知していた話であった。

漁法
昔〜貝マキ篭漁
今〜貝ケタ漁(小型機船底曳網漁)
旨さの旬〜(1)東京での旨さの旬の捉え方と
     (2)産地での意外な旨さの旬の捉え方の違い
「5月から6月の水温の上昇と共に浅場に移動し、旨さの旬に入ってゆく。
 抱卵を始めたハマグリは肝も大きくなり、足の部位の身肉も太り始め、7月20日頃には卵もパンパンとなり、旨さの最盛期となる。降雪の多い年には早まり、少ない年には遅くなる。大量の雪解け水による栄養分流入の多寡が影響するのだ。この時期のハマグリは、時雨煮にしても歩留りの良いものとなる。7月から8月にかけて産卵し、12月から1月頃には深場の塩分濃度の高い場所に生息し、痩せていて旨くない」…割烹「日の出」談
 と言う事は、ハマグリの卵は旨さの大きな要素となっているということだ。『日の出』では、この抱卵パンパンの時期を狙って、長年通ってくるお客さんも多いと言う。東京では、ハマグリの卵は食中毒の原因になるからと、食べる習慣がないため、東京からのお客さんは、気味悪がって食べないと言う。当店でも長年の間、大きな誤解をしていたことになる。東京でのハマグリの旨さの旬は、秋のお彼岸から春のお彼岸頃までとよく言われる。そして3月の桃の節句にかけてが最高値を付けるのだが、大胆にもずいぶん大きな旨さの旬の捉え方の違いが出て来たものだ。今期の夏場に向かっての抱卵と旨さの変化を知るのが楽しみとなった。(注:熊本県川口漁協でも同じことを言っている)

殻のサイズと成長年月
 1年で20mm。2年で32mm。3年で44mm。4年で55mm。
 3年から4年生のものが5割から6割となり、このサイズが最も味が旨くなるとも言われるが、3年ものは握りすしのサイズとしては少し小さめとなり2枚付けとなる。この上の大サイズが入札では最高値を付ける。
 産地荷受けは17社。内10社がハマグリを扱っている。

就漁日と漁獲量の漁獲制限

 かっての木曾三川河口は日本一の流量を誇り、広大なデルタ地帯でのハマグリの生産量は日本一を誇っていたと言うが、現在ではそのほとんどが消失してしまい、人工造成の干潟が生産再生に効果を発揮し始めている。
 現在では1日に25から30隻の船が出漁。1船で30kg、1ヶ月に10日の出漁で300kg。1日の漁協の漁獲総量は750kgから800kg。年間一人、1,000万円程の収入となり、県外流出組みの若者のユーターン現象が増えているが、漁業への適性と漁協での高齢化した漁師達の多い環境の中で、同年配の漁師である仲間がいないために孤立化し、なかなか定着はしないらしい。

漁協組合員平均年齢
 平均65歳以上。70歳を越えているのかもしれない。はまぐり漁では82歳、84歳の現役漁師も活躍し、70歳代が中心となっている。年間100から110日の短い就漁日数と、漁場が河口近辺の近場にあるために、高齢でも可能となっている。高齢のため、来年はどうなるか判らないという口実のもとに、規制サイズ以下のものも獲ってしまうという悪弊も出ていると言う。

入札
 午前11時開始。漁を終えた組合員が、それぞれサイズ別に選別したハマグリを網袋に入れて入札にかける。入札は手際よく、速やかに進んだ。
大サイズ(6cm以上)…5年生以上。中サイズ(4.5〜5cm)…3年から4年生。4.5cm以下のサイズは漁獲禁止で海に戻すことになる。中サイズはkg単価800円から900円。大サイズは3,300円を付けていた。今年の3月3日の節句時期にはkg単価4,500円の暴騰となったと言う。大サイズは通常でもkg単価3,000円から4,000円を付けると言う。

貝毒の発生
汽水域では貝毒は発生しないと言う。定期的に検査はなされているが、赤須賀では検知されたことが無いと言う。ホタテ貝・アカ貝・カキ等、産地での貝毒発生検査の厳重さを知っているが故に、これも意外な話であった。

密漁の発生
 
新たに作られた人工干潟の周辺での密漁が多く、サイズの漁業規制を無視して獲るため、4.5cm以下のものまで大量に獲られてしまう。小サイズの流通ものは密漁ものということになる。

赤須賀産ハマグリが送られてきた
 4月26日、赤須賀漁協からの当店としては例外的な産直が始まり、ハマグリが初荷として送られてきた。1日の間砂出しされ、築地の仲買宛てに送付される。かなりサイズが不揃いで、大、中サイズ、小サイズまでもが入り混じっていた。選別が少しルーズなようだ。握り1貫に2枚付けのサイズが大半だが、さらに細かい漁獲規制されているはずのサイズまでも混じっている。80歳台に乗せた漁師達の規制を無視した甘えの結果が出ているのだろうか。ここには、僕が直接選別出来ない産地直送の弊害が出てしまっていることになる。この4.5cm以下の漁獲規制サイズは、桑名のハマグリの殻がうすいために、非常に剥きにくく、余計な時間も要することになるのだが、資源の保護のためにも規制をもっと厳しくする必要がある。

赤須賀産、木更津産、鹿島産のハマグリの形態・色・旨みの比較
(1)赤須賀産…殻の色彩と模様の美しさは多様で、昔から桑名産をもって第一と賞賛されてきたもので、貝・貝絵・膏薬の容器に加工されてきた。
 外洋性のチョウセンハマグリは、蝶番を持つ上辺が「ハ」の字の形になっているのだが、桑名のハマグリは一方が長く、への字の形になっている。貝殻は丸く膨らんで厚みがあるように見えるが、殻自体は外洋性よりも遥かに薄く、その分身肉が太っていると言われる。現時点では木更津産との身肉の太り具合の差はほとんど感じられない。(中には痩せているものも混じっている)。外洋性は足の先が赤みを帯びて脂肪分が多く、少し硬めだが、内湾性である桑名産は足の先も乳白色をしている。ふっくらと太り、柔らかく、チョウセンハマグリよりもヌルがかなり多いと言われる。夏期の水温の高い大潮時に、このヌルの粘膜をパラシュートのように開いて、1夜にして12kmも移動することがあると言う。
 サイズは小さいのだが、食感は木更津産よりも柔らかく、甘みと品の良い旨さを持っている。足の身肉の色は先端まですべて乳白色となっている。

(2)木更津産…蝶番を持つ上の二辺は、ほぼ「ハ」の字の形で、乳白色の足の先端も少し赤くなっているため、二重に外洋性のチョウセンハマグリである茨城県鹿島産に似ている。食感も赤須賀産よりも歯ごたえが少し強く鹿島産に近いが、甘みは強い。

(3)鹿島産…ケタの幅を大きくして、5年生から6年生と6年生と7年生の大きいサイズを専門に獲っている。外洋性の「チョウセンハマグリ」で、殻は美しい模様をしているのだが、「ハマグリ」の模様とは少し異なる。殻の厚みがあり、足である身肉がその分、少し痩せている。足の先が薄赤く、内湾性の「ハマグリ」に比べて食感が強い。ヌルが少なく扱いやすいのだが、甘みは少し薄い。

価格築地で当店が仕入れる各産地のハマグリの買値)
茨城県鹿島産…特大サイズでkg単価2,700円。
宮崎県細島産…特大サイズ     2,700円。
木更津産…中サイズ        2,300円。
桑名赤須賀産…中サイズ(少し大・小サイズも混じる)

 4月ではkg単価3,000円前後(5月に入り2300円)+送料kg110円+その他手数料kg130円+築地での剥き代kg300円=kg単価3,540円前後(5月に入り2840円)  
 木更津産の中サイズよりも約54%(5月に入り約23%)ほどの高値となる。問題は、大サイズと中サイズとの価格差も含めて考慮した場合、この赤須賀産の高値が、他の産地との旨さと品質面での選別比較の中で、どれだけ充分な価値を持っているかということになるのだが、今後の1年間を通し、各産地の四季折々の変化を観察してゆくことにする。

資料参照…赤須賀漁業協同組合発行「赤須賀“いま・むかし”」
 「種苗生産ハマグリ飼育状況」
 「桑名産ハマグリの復活に取り組んで」漁獲量と平均単価の経年変化」          

熊本県川口漁業協同組合…福島理事談
漁場と放流の有無…「緑川河口を漁場とし、種苗放流は全くせず、地付きの在来種である純天然「ハマグリ」を獲っている。熊本県漁連に全て出荷。熊本県漁連集荷のハマグリの大半は川口漁協のものとなる。入札を経て産地荷受けによって各地に送られてゆくため、漁協では出荷先を正確には掴んでいない。殻の大きさは60gものが多い」
なぜサイズの大きいものが揃わないのか?…「3.5 ~5cm(3年もの)は中サイズ。5cm以上を大サイズとし、3cm以下は規制される。80〜100gの大サイズの、握りすしに最適の大きさは全体の10%位しか獲れない。赤潮、青潮の影響は無いのだが台風と大雨による被害は多々生じている。3月頃から産卵前の8月末頃までが旨さの旬となる。柔らかく、甘みが強く、旨みがある。冬は痩せている。卵の成長と共に足の身肉の部位は大きくなり、それに伴い殻は薄くなってゆく。冬は痩せているため、殻が厚くなる。足先まで乳白色をしている。木更津漁協の種苗は熊本県漁連のもので、川口漁協のものかもしれない」(注:足先の色の違いがあるので、同種のものではないだろう)

平成20年5月11日     
第三春美鮨 長山一夫

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