大洗町漁協の春子(カスゴ)
大洗町漁協行
茨城県東茨城郡大洗町磯浜町字東 平成19年6月21日(木)


カスゴ
 関東では、真鯛(マダイ)・血鯛(チダイ)・レンコダイ=黄鯛(キダイ)の3種類のまだ1年生である子供(当歳魚)を、まとめてカスゴと呼称する。しかしそれぞれに長短の特色があり、消費地での嗜好と地域事情により、選択特定されて用いられる。マダイの子は尻尾の先端が黒く染まっている。さらにオスの魚体は全体的に黒ずんでいて、華やかな朱の発色に欠ける。頭の先から尻尾の先端まで最も朱色の発色が美しいチダイの子(チコ)が、関東ではその華やかな美しさゆえに最も珍重され、カスゴを代表することになる。レンコダイ=キダイの子は、身質に少し水っぽさがあるのだが、美しい黄朱色の体表の色持ちが良いという長所を持つために、関西から裏日本で漁獲・珍重されるのだが、築地にはほとんど入荷して来ない。
 カスゴは20年前頃から釣ものの最高品の入荷は絶無となってしまった。江戸前鮨でも使用する店が少なくなり、あまりにも値が安いためと漁獲量の激減のために、釣漁の対象とは成らなくなってしまったのだ。だから鮮度が良く色の発色の美しいカスゴの入手先は全国でも極めて少なくなってしまっている。

  今年の2月頃から始まった大洗産のカスゴは、例年に無く継続的に入荷が続いている。鹿児島県内浦湾産のきんちゃく網漁によるカスゴ、廃業によって消えてしまった茨城県平潟産の定置網漁によるカスゴ、富山湾の定置網漁によるカスゴ等と共に、大洗産は素晴らしい鮮度と鮮やかな朱色の美しさを兼ね備え、質量共に最高品のカスゴとして評価されている。今期、継続的に入荷するカスゴは、仕入・仕込み・握りの夫々の段階で楽しみを満喫させてくれるものとなっている。
 カスゴの握りすしは、うっすらとした朱色の皮目と、全体がもう少し濃い目となっている朱色の尻尾が、ピンと立たせられた可憐な色合いと姿の美しさを愛でるものとなる。

課題
 では、大洗ではどのような漁師達が、どのような漁法で、どのような処理のもとに、この鮮度と発色の素晴らしいカスゴを出荷してくるのだろうか?
 大洗町漁協に問い合わせると、セリは、朝9時30分からの朝せりと午後1時半頃から2時頃までの午後セリとがある。カスゴは午後セリになると言うことだった。
 ならば、朝の仕入を終え、1時間は必要とする「本日の魚と産地」のメニューを書き終えてからでも午後のセリに間に合うはずだ。時化の心配もあるため、朝一番にカスゴ漁の有無を問い合わせてから行くことも可能ではないか。
 あわただしい朝からの時間のやりくりの後、予定していた常磐線の特急・スーパーひたちに乗ることになっていたのに、乗り間違えの快足急にて少し時間を無駄にしながら、11時55分水戸着。12時20分大洗町漁協着。

セリ場にて
 とにかくセリ場に急ぐ。朝セリはもうすでに終わってしまっているのは当然として、午後セリのはずの春子が、25キロ単位のプラスチック製の丸桶に入れられ、もうセリ場の脇に大量に並んでいた。本日の漁船の帰港が少し早かったために、もうすでにセリは終わってしまい、荷受け業者の500キロも入りそうな海水と氷が満々の水槽に移し変える作業に入っているところであった。今年、築地に入荷する大洗町漁協のカスゴのコツ箱は、全て「浜光」の名が記してある。漁協のセリ権をもつ産地荷主の流通業者の名称だ。
 3年前まで「浜泰」が最大手で、カスゴはほとんど浜泰が取り扱っていたのだが、倒産し、社長の甥っ子が「浜光」の会社名で引き継いでいるという。
 浜光は、カスゴの鮮度を最高の状態で出荷するために、各種の手当てを施している。昨年訪ねた石巻漁協の春ニシンの出荷に使われる海水氷の使用の有無を聞くと、現在の漁協にはその設備が無く、使っていないと言う。しかし、鮮度を保持するための海水氷のテクニックは承知していた。
 大洗町漁協のチダイは、大ハナ・ハナダイ・ハナコ・カスゴ・ベンカス・小ベンカスに区分される。当店使用の60グラム前後のものはベンカスで、それ以下の小さい小ベンカスは、肥料として二足三文の値段で処理されてゆく。

船引き網漁船「大春」船主兼漁師に聞く
 セリ場のまん前にある漁港の岸壁には、「大春」4.9トンが舫っていた。漁師が2人で、かなり長さのある大きな漁網の片付けをしていた。本日のカスゴ漁をやった船引き網漁船だった。手際の良い仕事の最中にもかかわらず、さっそく漁の現場の話を聞くために、失礼とは思いつつ、しつこくまとわりついて行く。
「カスゴは、1艘の船でやる、船引き網漁で獲る。カスゴを見つけると、丸く円を描くように50センチ程の大きな網目の網を大きく張り巡らし、真中にある、布に近い網目の網の中に魚を追い込み漁獲する。大洗の船引き網漁は本来、シラスを獲るための漁法で、シラスは大洗町漁協最大の漁獲量と漁獲高を誇る主役となる魚だが、この4年前から大不漁となっている。

大洗漁協のシラス大不漁の原因として、
1)2年続き、昨年の秋には修了宣言がなされた黒潮の蛇行の影響による潮目の変化。
2)ひたちなか港、那珂湊港、鹿島港の整備完成による防波堤の設置などによる潮目の変化。
3)冷水塊の発生とそれによる潮目の変化。
等が考えられる」と言う。

船引き網漁
「大洗町漁協のシラス網漁船によるカスゴ漁の船は4隻。4.9トン級で操業は2人で行なう。
 4年前からのシラスの大不漁のために、それを埋め合わせるためのカスゴ漁が多くなってきている。カスゴは冷水塊などによって水温が下がると獲られなくなるのだが、今年は水温が温かいために、カスゴには最適水温となっている。水温が上がる4月から5月が最盛期となり、身肉が太り、脂も乗ってくる。初秋の9月頃から11月頃の水温が下がり始める頃までも素晴らしいものが獲れる。(当店が使用する)60グラム前後のサイズはベンカスと呼び、1年位の大きさではないか(半年魚とも言われる)と思われる。船引き網漁では、巻いた魚はすぐに水揚し、ビンビンに生きている状態で船倉の水氷の中に落とし、瞬時に〆て行くという適切な処理がなされている。カスゴが死んでしまってからでは身肉が締まらず、鮮度の保持・維持が難しく、発色も悪くなる」

 1月から2月にかけての1ヶ月間だけを船引き網漁は休漁期間としている。
 漁協の前の岸壁に水揚げされたカスゴは直ぐにセリ場に回される。サイズ別に選別し、検量し、25キログラム単位の丸樽に入れられセリにかけられる。仲買人(産地荷受け業者)はセリ落とした後、500キロほど入る大きな水槽の中に集荷し、時間を見計らって各地の消費地向けに、骨箱に下氷の状態にして並べてゆき、密閉し、追っかけの体制で出荷して行く。

  小ベンカスは本来漁獲禁止サイズだが、網に入ってしまったものは肥料用として処理されてしまう。このサイズが混じっていると、他のカスゴの値崩れを起こしてしまうために、それぞれのサイズに厳しく選別が行なわれる。大量に獲られた時は選別が間に合わないために、値段は安くなるのだが、選別せずに銚子漁協に出荷することが多い。

「チコ (チダイの子)のカスゴは沖合いにある水深7メートルから8メートルに生息している。大洗の6月の今頃はマダイのノッコミの最盛期なのだが、ノッコミのタイは沿岸近くで獲られ、漁場が違うために、カスゴと混穫されることはない。マダイのカスゴ漁はほとんど行なわれない。

「大春」、4.9トンは5年前に新品で約4,000万円で購入。しかし4年前からの本命漁のシラスの大不漁、マダイの餌となるオキアミ漁も半分くらいに減少と、不運が続いている。

  大洗漁協の平均年齢65歳以上。後継者は少ない。以前は脱サラ、他業種からの転職漁師がたまにあったのだが、労働が苛酷なためか、皆止めてしまった。先が読めない不安の中で、今の漁師には夢が無くなってしまっている」と言う

大洗町漁協
 日本でも5指に入るほどの大きな漁協で、組合員は約250名。漁船は船外機の小型船を混ぜると約250艘ほど。茨城県では最大の規模を誇っている。シラス漁の漁船は70艘ほどある。カスゴ漁をする船引き網船は4艘。禁漁期を除き、通年操業。

漁法
 船曳き網漁(1月から2月にかけての1ヶ月間休漁) 70艘 
         シラス カスゴ
 延縄漁     イシカレイ
 底引き網漁   12月から3月末まで漁期
 刺し網漁    6月26日から9月中旬
 ハマグリのケタ漁

  大洗漁協・鹿島漁協・波崎漁協で月に2回・2回・1回の割で漁をする。
 ハマグリの漁業権を持っている漁師は、老齢になっても漁業権を放棄しない。月2回の操業は良い収入となるからだ。漁獲量は10年前の半分になっている。鹿島、大洗近辺に産卵場があるらしい。

◎ 今年は、大洗の船着場近辺にアオヤギ貝が大発生している。
◎ 那珂川の河口近辺にコハダが寄ってくる。好調な時には1日30キロ位、7,000円ほどになる。

平成19年7月10日

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