日本唯一、一本釣専門の本マグロ産地の登場
見島行(山口県萩市見島)

◎山口はぎ漁協宇部支店、田口武人支店長
◎赤崎旅館(萩市見島本村)
平成17年8月13,14,15,16日

 萩市見島は人口約1,300人、戸数約500戸、周囲18km、面積8.2キロ平方メートル。
 萩商港から約45km、高速船で約70分、日本海の対馬海流(暖流)に浮かぶ小島で、島を俯瞰すると天然記念物に指定され、見島特産の和牛の原種である見島牛の姿を写したような和やかな形状をしている。

 平成15年から16年の晩秋から冬場にかけ、津軽海峡大間、戸井等の旬の最盛期、最高の本マグロに混じって、魚体・色・脂の乗り・香り共に優れた素晴らしい見島産の一本釣りの本マグロが多々登場し、当店でも使う機会が多かった。この見島の本マグロ漁の状況、現場を視察するために、マグロ漁とは全く関係のない時期ハズレの夏場に、夏期休暇を利用しての旅となった。新幹線、バス、高速船を利用しての9時間半の行程は、少々長旅ではあった。真っ盛りの夏の晴天は酷暑を伴なうものであったが快適な時間の経過であった。

 今回の泊まりとなる赤碕旅館は本村港に近隣し、島内を代表する旅館である。築地市場のマグロの中卸しである「石宮」の紹介であり、旦那は旅館業を営みながらもマグロ漁の専門漁師として知られている。
 見島には宇津港と本村港にそれぞれ漁協がある。宇津地区では99%が漁師で、その半分は農業との兼業漁師である。見島でのマグロ漁を専門にする漁師は6人。本村漁協の赤碕旅館のご主人を除き、ほとんど全て宇津漁協に属していると言う。宇津地区のほうが気性は荒く、マグロ漁に適しているらしい。本村漁協の漁師はほとんど皆農業との兼業であると言う。
8年前から一本釣りの本マグロ漁が始まった

 見島での本マグロ漁の開発者は萩に在住し、自動車メーカーの中国地方販売総代理店の経営者でもある佐々木敦司氏であった。
 17年前に釣りを楽しむために島に通い始めるようになり、20〜30k級のメジマグロを釣っていたと言う。その後、漁師達と道具類の改良・開発を行い、大物の本マグロ漁に挑戦していった。1997年、遂に150キロ級の大物を釣り上げ、この頃から見島での本マグロ漁は本格化していった。だから見島の本マグロの一本釣り漁は、まだ8年ほどしか経過していないことになる。

本マグロ漁の現状
漁獲量
 見島沖の漁場では、最盛期には萩の漁船も含めて40〜50艘のマグロ船が漁を競う。漁場での1日の総漁獲量の最高本数は5〜6本。平均では2本。荒海で時化のために休漁の多い日本海での本マグロの一本釣り漁の競争は激しい。1シーズン漁獲なしの漁師もあり、平均年収500万円前後。1,000万円以上は4〜5人だという。

春…………トビウオ……夜、玉網ですくい上げ、生簀に入れ、活け餌として用いる。
夏から秋…シイラ……50cmくらいのシイラを朝釣りし、生簀に入れる。生命力強い。
冬…………ドンコイカ(アオリイカ)、オニイカ(スルメイカ)の活け餌
◎ アオリイカ
関東……では5月〜7月頃の夏場を旨さの旬とし、晩夏の頃には卵・精巣の肥大化と共に身肉が痩せて薄くなり、旬を終らせる。
見島……10月〜12月を旬とし、産卵後の身肉の痩せが元に戻り、身肉が厚く、甘みが強くなる。6月〜7月、藻場に産卵にくる。

水揚げ
 一本釣りの仕掛けは漁師それぞれの秘法で公開はされない。100キロ級で約30分、200キロ級で1時間前後の格闘となる。以前は1艘1人での漁で、200キロ級の水揚げは5〜6時間掛かっていたが、最近は2人乗りとなり、滑車を2個付けることによって海面から船内への水揚げは迅速に行なわれ、手早く活け締めされ、血抜きされる。極端に短時間で水揚げすると身肉が煮える状態となり、価値がなくなってしまうのだと言う。水温の高い夏場は元気が良く、冬場は水温が下がるために動きが鈍くなり、水揚げは比較的容易になる。

出荷
 浜締めされ、内蔵を処理されたマグロは、氷が満々の大きなダンベの氷水の中に入れられる。陸揚げされたマグロの鮮度の管理維持は漁協の仕事となる。
 山口県はぎ漁業協同組合宇津支店、田口武人支店長は見島で獲られる本マグロの鮮度維持管理の全権を握っている。満々の氷に充たされたダンベの中に浮かぶマグロの魚体の上下を、2時間ごとに入れ替えてゆく。上下では微妙に温度差が出るため低温に一定させるためだという。この入れ替えは、どんな非常状況の中でも厳密に行なわれる。だからマグロの漁獲のシーズンに入ると昼夜を問わずに、田口支店長にとっては毎日2時間毎の仕事の継続となる。これは常に最高の状態で出荷しようという、見島の本マグロに対する愛情と仕事に対する責任感と誇りがなせる業である。翌朝5時に、防熱板を張られ、水漏れが全く心配のない木箱(通称カンオケ)に移され、朝7時の定期便で出荷。日通によって萩経由、宇部空港より空輸便で送られ、水揚げの翌々日、築地でのセリとなる。

マグロの体温と色・風味
 マグロは水温よりも体温が2度ほど高い。釣り上げ方、その後の処理の不手際で体温がさらに上がると簡単に「身ヤケ」を起こす。最悪の場合には骨回りの身肉がぶくぶくとなる「煮える」という症状を呈し、色、鮮度、風味共に台無しになってしまうこともある。
 体温が急激に上昇しないように時間をかけてじっくりと釣り上げること、水揚げ後の締め・血抜き、低温管理を厳密に行なうことが鮮度・色・風味を維持し、最高のマグロの評価を得る最大のポイントとなる。

漁法
釣り漁、刺し網漁、たて網漁
 本マグロは全て一本釣り漁となる。日本の全ての本マグロの産地で、一本釣り漁法だけを守っているのは見島だけとなる。
 新潟県佐渡の漁協より、本マグロ一本釣り漁法の見学の申し込みが来ている。田口支店長は快諾をしていると言う。太っ腹なのだ。佐渡の本マグロは全て大謀網によって漁獲される。最近の一本釣り、延縄漁による本マグロの評価価値の高騰に対する勉強会なのだろうが、大間漁協・戸井漁協からは断られたのだと言う。

見島の魚介類
春…ケンサキイカ、ヤセイカ(ヤリイカ)、オニイカ(スルメイカ)
  海女潜水漁〜クロウニ(ムラサキウニ)、クロアワビ、サザエ
夏…イサキ、マアジ、シマカツオ、シロイカ
  海女潜水漁〜アカウニ(7月〜8月が一番甘い)、サザエ、クロアワビ
秋…本マグロ、小マグロ、ドンコイカ(アオリイカ)、シロイカ、メジ(ワラサ)、ヒラマサ、カツオ、イサキ
  海女潜水漁〜10月〜11月休漁
冬…本マグロ、マダイ、ブリ、
  海女潜水漁〜クロウニ、サザエ、クロアワビ

◎本マグロ漁は11月〜3月が最盛期となる。
◎15年前頃から水温が一度上昇したことが原因なのかもしれないが、10月〜12月にかけて脂の乗った最高のカツオが一本釣りで獲れるようになった。霜降り状態の最高の身質であると言う。シーズンに入ったら田口支店長から一度送ってもらうことになった。
◎ウニ〜見島のアカウニは塩分濃度の濃い対馬海流の速い潮の流れと、豊富な餌によって甘みが強く、本土のウニとは旨さに大きな差があり、8月末には産卵に入る。流通手数料で漁師の利益が消えてしまうと言い、アカウニは築地には出荷されな いと言う。

出荷
 夕方6時までに選別・集荷し、定期船で萩漁協へ出荷。夜8時に萩漁協着。午前2時、セリ。
 見島の魚介類の大半は九州、広島方面に出荷される。築地に出荷される場合、追っかけの出荷は無理で、丸2日後のセリとなり、鮮度の問題が出てくる。
 夏場、黄アジが釣れると言うが、今回は盆休みの休漁と重なり、黄アジの姿を見ることは出来なかった。問題は丸2日後の入荷となる黄アジの鮮度と旨さがベストの状態にあるかということになる。
 漁師の平均年齢65歳〜66歳。後継者ほとんど無し。
 今期、晩秋から冬場にかけての見島産本マグロの入荷を期待している。

平成17年8月20日

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