魚介類の油汚染(その2)
魚介類を蝕む海洋汚染

海の汚染の総合的な実態

海洋汚染の原因とされているもの
(1)油汚染 (2)赤潮、青潮の発生(合流式下水道問題の発生) (3)埋め立て、自然海岸の工事等による生態系の改変が引き起こす諸問題

海上保安庁による海洋汚染の発生原因の特定
(1)漂流、漂着ゴミ (2)船舶からの油の排出 (3)臨海工場等からの汚水排出 (4)廃船の不法投棄 

海の油汚染の原因
海上からの油汚染
(1)漁船、貨物船等による廃油の廃棄
(2)船舶、タンカー事故による油の垂れ流し、流出。
 1960年代、船舶による油の不法投棄が殊更に声高く叫ばれ、魚介類の油汚染の最大原因とされていた頃、東京湾を筆頭に日本全国の湾で公害による汚染が表面化し問題化していった。1998年に発生した東京湾内でのタンカー事故は、大量の油流出による深刻な海の汚染と、油拡散防止のための中和活性剤の大量撒布による2次汚染の可能性も危惧されるものであった。後に、東京湾海底の定点観測をしている水中カメラマンによる事故現場付近の海底に発生したおびただしい油の塊と、その周辺にある魚介類の死骸状況の報告を読み、危惧が的中したことを知ったのだった。
陸上からの油汚染
(3)1960年代、日本経済の高度成長と共に、様々な公害問題が表面化していった。臨海工業地帯からの化学物質、廃油等を含む工場排水の無秩序な廃棄。
(4)ガソリンスタンド等、油を取り扱う現場での不法な廃棄、不始末。
(5)合流式下水道の大きな欠陥と言われる生活排水に含まれる廃棄油の流出と、下水道管の中で生じ、しだいに大きくなってゆき、海に放出されるオイルボールと呼ばれる白い油の塊の漂着と海中での分解が海岸汚染の原因となっている。魚介類の油汚染の重大な原因となっている可能性もある。地球環境白書「驚異の科学」シリーズ 
「最新 今『地球』が危ない」の中に、興味深い資料が豊富に掲載されている。(平成15年度、海上保安庁の資料より)

◎船舶から排出され海洋で発見される油汚染の原因の集計
(1)海難事故によるもの………95件
(2)取扱い不注意によるもの…107件
(3)故意によるもの……………38件
(4)破損…………………………30件 
(5)不明…………………………12件  
(6)その他………………………10件

大量の漂流油
 年間2600キロリットル(ドラム缶1本で180リットル。2,600,000リットル÷180リットル=14,444本)。これは異常な数字だ。ドラム缶14,444本分の油の量と言うと、これは単なる廃油の廃棄とか、生活排水からの汚染だとは考えられない。何か決定的な原因があるはずだ。臨海工場群からか、または国内外の大型船舶からの廃油または油漏れか?
◎ 日常的に海洋に負荷される石油の総量は、事故による流出の総量を上回ると指摘されている。
◎ 環境省の海洋汚染対策費は年間わずか2億円程度でしかない。
◎ 海洋の植物プランクトンが吸収し、固定化する二酸化炭素の総量は陸上の植物全体で固定化する二酸化炭素の総量にほぼ等しいと言われる。
◎ 植物プランクトンは、海洋での植物連鎖の中では最低位の出発点になっている。
◎ 東京湾の赤潮の発生は、年間50件に上る。
◎ 湾周辺人口約2300万人、生活排水や工場廃水が絶え間なく注ぎ込み、流入総数1日700万トン、窒素は浄化能力の10倍以上に当たる1日320トン、リンも約6倍の26トンが流入している。水質浄化の決め手になる干潟も、沿岸部の約9割が埋め立てられ、残った干潟は、わずか約1,600ヘクタール、明治期の8分の1に激減している。

 オイルボールと呼ばれる粘土のような白い油の塊が沿岸に漂着するようになり、東京都は約90億円かけて対策に追われている。国土交通省都市・地域整備局がオイルボールの元凶で大雨で汚水が流れ出す「合流式下水道」の実態解明を目的とし、検討会を重ねて処理施設の改善を目指す。港湾局は今年度(平成13年度)から実用化している湾内に漂うゴミと油を同時に回収できる清掃船をフル活動、さらに水質のモニター調査も行なう。撤去中の第三海堡の残土などの人工干潟への使用、潮流や温度差、赤潮発生の条件など、湾内全体の汚染メカニズムの解析も進め、赤潮発生ゼロを目標としてゆく。(産経新聞、平成13年6月26日参考)
「注」 オイルボール…全長20センチに及ぶ白い油の塊で、お台場の海岸に漂着した。

海上保安庁、田尻宗昭
 1968年、田尻宗昭氏(40歳)が海上保安部警備救難課長として三重県四日市に着任した。当時すでに死の海と化していた四日市港を中心とした伊勢湾全体の、公害による壊滅的な状況の調査と企業告発をした。廃業の状況にまで陥っていた漁業の再生をかけて、臨海工業地帯で操業する大企業の化学工場群との闘いは、公害原因の地道ながらも徹底的な洗いざらしと企業の社会的責任追及の公害訴訟にまで展開していった。海の汚染は陸上での大企業による公害原因が大きなウエイトを占めていることを明確にしたのだった。

参考資料
◎1962年12月、東京都の漁民は漁業補償金により、漁業権の全面放棄をした。
◎ 赤潮…リン、窒素の大量の流入によって富栄養化し、プランクトンの過剰、大量発生を促し、その結果酸欠を起こし、集団死亡する。…酸欠の海
◎ アサリなどの二枚貝がプランクトンを食べ、海を浄化する。赤潮はその処理能力を超えた海に発生する。

最近、東京湾の水がきれいになってきたと言う。本当だろうか?
下水道による排水の浄化処理
 下水道処理場による排水の浄化は、塩素殺菌によるものが大半となっている。塩素殺菌処理された排水が大量に東京湾に流入すると、処理水の残留塩素によって海中の動植物プランクトン等の魚介類の栄養物が大きく阻害されるというマイナス面が発生している。東京湾は以前と比較してかなりの浄化を見せているのだが、油汚染等の新たな汚染の浄化処理の問題が発生している。塩素殺菌による内湾の浄化が、漁業資源の枯渇・減少問題をもたらしている。

◎ 合流式下水道…(1)雨水と(2)台所、洗面所、トイレ、風呂等の生活排水を一緒に同じ下水道で処理する。
◎ 合流式下水道の欠陥…大量の降雨があった時に処理能力を超えてしまい、生活排水が未処理のまま海に流出する。
◎ 工場廃水の処理水はどうなっているのか?
◎ 分流式下水道…上記の欠点を無くすものとして賛同論者が多く、これからの下水道の主流となってゆくのだが、改善経費の膨大さと、雨量が大量となった際の汚濁未処理雨水の問題もある。
◎ 以上から3次処理の必要性が言われるが、コスト高となり、批判が多い。
◎ 下水処理場からの排水量は平成元年から8年までの8年間で10倍になっている。排水の90%が下水処理水として出ている。
◎ 下水道処理
(1)塩素殺菌処理…現在主流の塩素殺菌によるものは残留塩素のトリハロメタン発生の問題がある
(2)紫外線殺菌処理…全国30ヶ所。残留塩素問題の解決策となっている。

「下水処理対策は現在分流式が最善とされる流れにあるが、処理場は海岸に近い末端に設けられることが多い。リン、窒素は本来、植物の肥料となる性質の資源であり、その有効利用のために、もっと上流域に処理場を設け植物をはじめ生物の育成を計る循環式利用法を取り入れ、生物を通して減少させてゆくことができる、又終末処理ではなく、発生源での合併処理浄化槽などによる処理水の循環等、発生源対策も必要だ(場合によっては河川に流してゆく)」との論もある。

「全ての公害の防止に共通する考えで、受益者負担をより徹底させる必要がある。下水処理水からリン、窒素を完全に取り除くことはほとんど不可能であり、最小限にするためには生活排水を出す現場の家庭で、中性洗剤の使用とか、食用油等の処理規制するとか排出源で汚染しない水を出してゆくようにする必要がある。下水道処理を最善にするためには下水道料金の値上げも考慮に入れる必要もあり、産業構造、生活様式を循環型に変えてゆくとか、住民個人個人の公害意識の自覚と実践が求められてくる。」とも言われている。

平成17年5月5日連休最後を利用し滝口喜一を訪ねる。
 今期の海苔漁を最後に引退宣言をしたのだが、まだまだ意気軒昂、体力気力十分のようだ。しかし、海苔シビの手配はもう年齢的に厳しいようで、誰か他の漁師が少量の海苔の栽培をしてくれるのなら、海苔漉きは手漉きでやり、天日乾燥することも出来るのだがと、まだまだの色気を出していた。今期の収穫量は大激減であった。12月までの年内の収穫が全滅してしまい、年が明けてからも時化と天候不順のために海苔摘みができなくなり、冷凍網を何枚も腐らせてしまったと言う。

内湾の汚染について
今期で引退する漁師・滝口喜一(79歳)の本音
 今調べている内湾の油汚染の問題についての疑問をぶつけていった。
 昨年発生したJFEのシアン流出は、水産試験場の検査で発見され、海上保安庁の捜査で明白になったと言う。またまた再発した大企業の社会的責任論とは何なのだろう。

 内湾の深刻な汚染問題をまだ知ったばかりの数字をもとに話すのだが、どうも話が噛み合わない。魚介類の漁獲量が年々減少していること、海が致命的に汚染されていることなど、漁師にとっては昔からもうとっくに知り尽くしている事柄なのだ。「何を今さら!!」 なのだった。「もうこれ以上頑張ったって海は綺麗にならないし、魚はもっと獲れなくなるさ。漁協が何をしてくれると言うのだ。時代の流れを変えることは出来ないさ。今はもう船橋の漁師達の平均年齢は65歳以上になっているはずだ。海苔漁師に30代のヤツは誰もいないぞ。貝の漁をしているヤツに少しいるが、職を失って遊んでいるやつが渋々やってるだけだ。もう20年もすれば船橋漁協も終りじゃないか。老齢化からいって30年は持たないね」
「もう漁師としては諦めちゃってんだ」と聞くと、「だけどよう、それが現実で、何も変わらないのさ。年金を貰いながら漁をしている漁師達が辞めたらそれでお仕舞いさ。漁業補償だって漁獲量によるもので、微々たるものさ。」

平成17年3月20日

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