ウニ

ウニの人気
 酒はぬる燗、梅錦・本醸造「つうの酒」の樽酒。肴は北海道、道東産の赤ウニ。これをいいワサビといい醤油でチビチビとやる。これだけで今日一日を充分に生きた幸せをつくづくと噛みしめることができるというものだ。
 生ウニは酒の肴として絶佳なものであるが、いつのまにか女子供までもがこの美味しさに溺れてしまっている。すし屋のせいである。すしはぜいたくだ。この高価なウニをたっぷり軍艦に乗せて握る。戦後、東京でも食べられるようになった生ウニは、今や一大ブーム。老若男女全ての憧れとなっている。アツアツの御飯の上に山盛り乗せ、醤油とワサビでかっ込むなンぞは夢にまでみる憧れの的の一つになっているのだ。

旬と漁期
 11月上旬、解禁から始まるウニ漁は、北海道は道東の落石から道南、下北半島へと次々に解禁、漁が始まってゆく。夏場の産卵後の卵巣は再生過程で粒も小さく、甘みも薄く、少々水っぽいが、年明け1月頃よりしだいに大きく成長し、甘み、香りともに濃厚となってくる。3月、4月、5月と旬の最盛期を迎え、絶妙の美味しさを発揮してくる。そして、6月に入ると下北半島から道南へと徐々に禁漁期に突入、7月、8月には道東も禁漁。10月には、全域全面禁漁となってゆく。7月、8月、9月、例外的に三陸と北海道の日本海側が解禁となり、輸入もののウニと共に市場を占有している。しかしこれらの産地のウニは暖流系のウニであり、「甘み、香り」共に少々薄い。エサの海草とプランクトンのせいだ。そして又、11月には全面的に禁漁となってゆく。ウニ漁は各地の漁協ごとに漁期を設定し、資源の維持と保護に努めているが、密漁が多発し、禁漁期でも多々市場にいいウニが入荷してくる。

◎漁法 潜水漁、突き漁、篭漁(深場)、胸まで海に入っての拾い漁は通年可
◎ウニの種類、産地 漁期、エゾバフンウニとキタムラサキウニの比較表(詳細別記)
◎築地市場へ入荷の産地
 1)常磐地方
 2)三陸地方
 3)下北半島、津軽半島
 4)北海道
 5)裏日本、九州、淡路島地方は入荷せず。
 6).関東近辺は入荷せず。美味いウニはほぼ全滅してしまった。
 7)輸入もの
  (イ)ボストン・メイン州(身もち、色悪い、殻付きで輸入)
  (ロ)東海岸国境沿、メイン州、ノバスコシア、バンクーバー(色、味良い)
  (ハ)シアトル(苦みあり、輸送が悪く、柔らかく溶けやすい)
  (ニ)ロスアンジェルス、メキシコ、サンフランシスコ(味良い)
  (ホ)チリ、中国(色、味ともにダメ)
◎旬 産地により異なり、禁漁、解禁時期にずれがある。(詳細別記)

◎築地市場に入荷し、東京で賞味されるウニは@とAの2種である。
◎各種ウニは、生殖巣の成熟期から産卵期にかけて、自然保護のために禁漁となる。


◎@、A両者ともに薬品(みょうばん)なしの状態では同質に柔らかく、舌にとける。


◎道及び県指定禁漁期の図表「4」と各地漁協指定の漁期表「5」とは、必ずしも同一線上ではない。
◎表「5」は各地区(多数の漁協がある)の漁期の最大公約数的漁期図である。

              平成10年6月

「生ウニ」が不味くなってきている
 「綺麗なバラにはトゲがある」。食の世界でも、素材、料理共に「美味しいものにはトゲがある」ことが多い。生ウニは、身がふっくらとくずれず、粒が立ち、色がきれいで香りがあって、甘みが強く、舌にとろけるのが良く、これを最高とするのだが、現実はもう少し厳しい状況にある。「姿、形、色」の見てくれの美しさは本来、二次的要素であるが、近年生ウニの価値基準はこの見てくれが主体となり、「旨さ」が従と、主客転倒の傾向が強い。天然自然の素材の旨さは、添加、加工が困難だが、日本人はすごいのである。「見てくれ」などはいくらでも加工してくるのである。「旨さ」こそ命なのだ。「見てくれ」は従で良い。約20年前頃より、生ウニの人気と普及に反比例して味が悪くなってきている。
 乱獲と海の汚染、海水温の上昇、自然環境の変化による漁獲量の激減は相対的に「旨いウニ」の激減をもたらしている。さらに数少ない「旨いウニ」があたら一部産地加工業者達のせちがらい経営と流通の事情により、さらに一方的に不味くされてしまっているのである。東京の市場では、「綺麗で見てくれの良いウニだけが高く売れる」と、産地加工業者は平然と広言している。これは何なのだ! これはおかしいではないか!

生ウニ流通の現状
(1)最終消費者(すし屋においてはお客さん)
 値段と見てくれの美しさで鮮度と旨さを判断して食べる。食べてダメなウニにはクレームをつけてほしい。ただただあまりの不味さに唖然、呆然、言葉を失っていてはいけないのだ。最近若者、女性、子供に「ウニ嫌い現象」が出てきている。あの不味い「輸入三流ウニ」は驚異的で、あれは人間の食べ物ではない! 「旨いウニ」の流通の再現のために大クレームをつけてほしい。

(2)すし屋及び飲食店
 仕入れの方法は、まず値段、次に産地加工業者名、そして「見てくれ」で仕入れをする。この際、一般の人には信じられないようなことなのだが、ウニの旨さの味の確認はほとんどされていない。ウニは高価なため、味見をすると、その「ウニの箱」がキズものになってしまう。だから味見を出来ない。しかしこれはどう考えてみてもおかしい。

(3)築地市場の仲買人(セリ場でウニをセリ落とし、飲食店に卸し販売をする)
 まず産地加工業者のラベル、そして「見てくれ」(ほんの一部の優秀な仲買人は味をみる)。そして値段を決めるためにセリを行う。このセリは、応々にして「見てくれと」産地加工業者の指定の等級に従って値が決められることが多い。産地加工業者の一方的等級の指示が、そのまま通用してしまうことが多い。

(4)産地加工業者
 産地漁協で入札によって殻付きウニを落札、仕入。自社の加工場の加工場にて殻付きウニを割り、卵巣を採りだし生ウニを箱詰めする。入札の際には、漁師名、漁場が明示される。味見も出来る。Aランク、Bランク、Cランクと落札してゆく。Aランクの殻ウニの全てが均一品質ではなく、殻の外見では見わけが難しく、かなりの品質のバラつきがある。殻を割り、卵巣をむきとり、海水で洗う過程でさらに品質別に区分し、等級をつける。Aランクの入札品の中にどれだけ最高品(スペシャル)が混じっているかが勝負で、その日の入札の運、不運となる。加工(箱詰め)の過程で等級決定、等級指定ラベルを箱に貼付し出荷する。この等級指定ラベルは、消費地では盲目的に評価、信頼されて流通することが多い。

 漁獲量が少なく、最高品が品薄の時、大しけの際の出荷調整による産地留めで、品質保持、保存のために不当に過度の薬品の使用による旨さの劣化はないか? 品質の過大評価はないか? 現状では生ウニはとにかく食べてみないと味がわからない  業者の「売れればよし」の世界であり、信用、信頼関係の欠けた食材の世界となってきている。同一メーカーの、同一等級、価格のウニでも、毎日、味の落差があることが多い。
 ウニは高級、高額素材であるにもかかわらず、試食もされずに流通する不可解な素材となっている。当店では仕入の際、必ず試食を行い、旨いウニを選別している。最近、特に北海道の一流メーカーのウニの堕落が目立っている。

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熊寛(株)(青森県下北半島大間)行
             平成5年5月22〜23日

下北半島北部の白ウニ(キタムラサキウニ)探訪
         美味しいウニの流通のための提案


産地加工業者の義務と責任
(1)ウニの漁獲産地と加工年月日、賞味期限、添加物の種類と量の表示。
(2)輸入ウニは、産地国及び地名も表示。
(3)ウニの等級決定とラベル表示は適正、公正な評価基準にもとづき、旨さ主体であること。
 加工年月日の表示により、流通のスピード化が促進される。産地名、産地国、添加物の表示より、全ての人に美味しさの最低限の判断基準を与えることができる。

雑記

◎天然ウニの激減を補うため、北海道の美国、鹿部で種苗の人工栽培を行っている。この人工種苗を各地で放流しているが回収率は3分の1以下、4〜5年後に味が良くなると言われるが、純天然ものよりも甘みが薄くなるという。
◎ウニは淡水に弱く、水質の悪化と酸素不足にも極めて弱い。
◎水温の上昇、磯の荒廃により、ウニは劣化し、味が落ちている。
◎道東は昆布が豊富であり、エゾバフンウニだけを捕獲、加工、出荷している。
◎下北半島、道南は、最近とくに昆布が少なく、動物性プランクトンまでもエサとするため、旨さの劣化がみられる。
◎ウニの胃と腸は、色が黒く味が悪い。身がくずれやすく、苦みの原因となる。
◎産地加工の「ウニの箱詰め」は高度な技術で、詰め方の巧拙によって値段に大きな差がでる。ベテランの女性達が箱詰めし、常に点検、指示が行われている。
◎産地直接出荷の殻付きウニは、往々にして不味いものが多い。品質の選別が難しく、不徹底となり良品のみの出荷は不可能である。また、三陸産の甘みの薄い2等級品が送られてくることが多い。
◎最近は、景気の低迷と世界中からウニが輸入されるため競争が激しく、出荷調整の余裕はなく、良品から直ぐに出荷しているとのこと。
◎ロシアによる北方領土のウニは老化したものが多く不味い。最近は日本人が技術指導をし、旨いウニの選別や漁場の指定により、技術が向上し良化している。中には最高級レベルの旨いウニを選別することも出来るようになった。

「焼きみょうばん」の使用
 ウニの卵巣の剥き身加工の際、海水中に「焼きみょうばん」を溶かし、その溶液の中にむき身粒を落としてゆき、洗う。塩とみょうばんにより、身を締め、固め、発色も良くする。業者の流通上の利便のための使用過多は、渋みが強くなり舌に残留する。又、不要に身が固くなり、保存性は高くなるが身がくずれなくなり、鮮度の判断が不明になる。溶液は2〜3パーセントでサッと通すだけ。鮮度の悪いウニは溶液を濃くしても固まらない。「生みょうばん」は酸味が出るので使わない。
◎ウニは卵巣を食べるのだが、雄と雌があり、キタムラサキウニの白ウニでは、雌は赤黄色っぽく、身が柔らかでくずれやすいため、東京以外の市場へ出荷されることが多い。産卵期に白い精液が表面につくのが雄で、精液には毒性があるが一晩冷蔵すると解毒される。
◎生ウニは見てくれ、色が悪くても旨いものは多々ある。産地からの輸送と時間経過で身質が少々ゆるむのが当然で、表面が少し「シットリ」とした感じのウニは、みょうばん使用量が少なく、美味しいことが多い。

加工方法
◎軟水は硬水に変化させて使用する。不純物が少なくなり、塩、みょうばんの使用純度が高くなる。みょうばんの純度は約2倍になる。   
◎硬水+塩水+みょうばん(塩水濃度3.3パーセント みょうばん溶液2〜3パーセント。水温は12〜15度)。
◎海中から水揚げ後の温度管理が重要。適温15度。夏場では20度でウニが溶け始める。
 1)ウニ殻の背に包丁を入れて割る。フォークで卵巣を採り出す。
 2)バケツの中の塩水中に底の平らなザルを入れ、殻ウニの卵巣をむき落としてゆく。
 3)ピンセットで黒いワタと胃、腸を完全に採り除く。苦みとヨード臭の原因となる。
 4)さらに次のバケツの塩水中で洗う。これを4回繰り返すと綺麗になる。
 5)塩水を完全に切り落とし、木箱に並べてゆく。高度の技術を必要とし、ウニの価格が左右される。
◎「みょうばん」の使用が旨みを損なっているとしたら、使用しなければよいのでは?

加工業者の答え

 1)100パーセント全く使用しない場合では、加工の時、海水だけではウニの粒が締らず、柔らかすぎてワタ、胃腸を洗えない(苦みとヨード臭が残ってしまう)。
 2)不使用の場合、2日目(翌日)には表面に少し水分が生じ、溶け始める。
 3)多少の使用は不可欠である。使用パーセントは加工業者の企業秘密で表示は難しい。
 4)ウニの漁場、産地名の表示は可能。輸入ものも可能。
 5)加工生産年月日の表示は販売業者の売り残しの問題もあり、業者間の現状では難しい。
 6)添加物の表示は一部業者は始めている。
 7)ウニの等級決定は業者の信頼と良心の問題である。
 8)ウニの生存環境が徐々に悪化しているため、旨みに微妙な変化が生じている。
 9)「色、つや、粒のぷっくりと立っている姿」の見てくれは、みょうばんの使用によって可能だが、加工の都合上、ギリギリの限度におさえると、ウニは鮮度、旨さに関係なく少しゆるみ、しっとりとした感じになる。むしろ少しゆるい方が旨い。        平成10年5月

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秋山水産(株)(北海道厚岸市湾月町)行
              平成11年3月20日

北海道 道東の赤ウニ(エゾバフンウニ) 探訪

 北海道、道東・道南の赤ウニの現状、北方領土の国後島の赤ウニの旨さの秘密と分布状況

 釧路空港より約40分。今回の旅の案内役を買って出てくれた早大時代の友人、高橋信一のRV車に同乗し、気温マイナス6度、透き通るような冷気と晴天の中を、厚岸市在の秋山水産(株)へ直行する。途中、キタキツネ、エゾシカ、タンチョウツルの出没の歓迎を受け、初体験の北海道の冬を実感する。
 秋山水産では、3月20日、21日、22日のお彼岸の三連休は本来、ウニの加工業務は休みなのであるが、道東のウニ漁は今が真っ盛りであるため、休業日にもかかわらず、昼頃まで加工場で、ウニの殻剥きと箱詰めが行なわれるとのことであった。しかし残念ながら、到着時には既に殻剥きの工程は終了し、40名ほどの女性たちによって、ウニの箱詰めの作業が行なわれているところであった。
 本日入荷のウニは道東の釧路と襟裳産のエゾバフンウニ(赤ウニ)であると言う。道東には、キタムラサキウニ(白ウニ)は生息せず、エゾバフンウニが主役となる。秋山水産はこの赤ウニを専門に加工している道東最大のウニの産地荷受け、加工業者である。
 女性達の箱詰めは指導員の指示に従いながらも、見事な技術であった。箱詰めの技術の巧拙はウニの価格に大きな影響を及ぼす。しかし、本日入荷の襟裳産は、決して最高品ではなかった。ウニの粒は大きめであり、色は全体的に赤褐色であるが少し黒みかかっていた。老齢化した雄の赤ウニなのであろう。このウニは、当店の築地での仕入の際の味見の経験値から言うと、仕入れの選別外となってしまうレベルのものであった。
 ざっと全員の仕事振りを見学させてもらい、その後すぐに殻ウニ保存用の低温冷蔵庫を覗かせてもらった。4〜5年生のロシア産の殻ウニが籠の中に山積みされていた。生産地は北方領土として問題になっている国後島である。この北方領土産のエゾバフンウニの実態の勉強が今回の厚岸市入り、秋山水産(株)訪問の最大の目的である。

北海道、道南、道東のウニの現状
 最近、ウニの名産地での漁獲量の減少と旨みの劣化が次第に顕著となってきている。5、6年前頃から特に目立ち始めた昆布の漁獲量の減少は、地球の温暖化による海水温の上昇、環境汚染等による海の荒廃と乱獲が原因と見られている。しかし、この昆布の漁獲量の減少は異常で、3年ほど前から昆布の市場価格は約2倍に高騰している。そして今年はまたさらに高騰すると言う。
 ウニは昆布を主食としている。この昆布の生態系の異常な変化が、ウニの漁獲量の減少と旨みの劣化に決定的な打撃と影響を及ぼしているのである。かつてエゾバフンウニの南限であった下北半島では、すでに10数年ほど前から海水温の上昇にともない、その生態系は絶滅してしまってる。水温の上昇に対応できなかったのである。今ではキタムラサキウニ(白ウニ)だけしか獲れなくなってしまっている。
 初夏から夏場に解禁になる、暖流系の常磐から三陸にかけてのキタムラサキウニ、同じく北海道の日本海側の暖流系のキタムラサキウニは、もともと甘みと旨みが薄いのであるが、これらのウニも次第に漁獲量が減少し、旨み甘みもさらに薄くなってきているようである。
 ウニのトップ加工業者達が勢揃いし互いに競いあっている道南のキタムラサキウニとエゾバフンウニも全く同じ運命をたどってきている。かってのウニの名産地である道南の椴法華(とどほっけ)、恵山(えさん)近辺では2月から3月が最盛期であるが、諸条件の悪化に伴い、これらの産地でさえ質量ともに旨いウニが大激減してしまっているのが現状である。
 こうした状況の中でも、道東の昆布の名産地で漁獲されるウニは、例外も多少あるのだが、比較的本来のウニの甘みと旨さを維持してきている。厚岸、日高、釧路、根室、羅臼の道東の赤ウニである。
 ウニは、ひとつの名産地のウニが全て旨いのではない。その名産地でも特定の生息場所で獲れるウニが旨い。その特定の漁場でも、さらに成長年齢、漁獲時期、雌雄によって旨さの品質に大きな差異が生じてくるものなのである。だから特定の漁場のウニでも、セリまたは入札によって総括的に仕入れたものを、加工場で剥き、箱詰めする際に選別すると、数種類の品質格差のあるウニ箱ができることになる。この中で、どのくらいの比率でスペシャル(の品質のウニ)が獲れるかが仕入れの腕と、運ということになると言う。

成長年齢と旨み、雄雌
 4、5年生ぐらいのウニが最も旨いとされる。味が濃厚で充実し、甘みの強いウニの成長時期であるという。6、7年生ヘと老化してゆくにしたがい、大きな殻の割に卵巣の粒の割合が小さく、色も黒っぽく悪くなってゆく。甘みも落ち、味が劣化していく。寿命は12年ぐらいである。
 ウニは、もともとは雌雄一体であり、外見の殻の状態では、雌雄の識別をすることは出来ない。エゾバフンウニでは、粒の色の赤いのが雌で、甘みは強いが身質が柔らかく溶けやすい。老化とともに薄く黒っぽい濁色が混じってくる。雄は黄色っぽく薄い赤色で、身質がしっかりしているが、甘みも少し薄い。産卵期に入ると、雄は乳白色の精子(乳)を粒の表面に滲ませてくる。この時期になると甘みが薄くなってくる。全てのエゾバフンウニは老化すると雄に転化してしまい、色が悪くなってゆき、味も劣化していくのだと言う。

漁獲時期
 産地により解禁、禁漁の漁期に大きな差異がある。抱卵前の粒は小さいのだが、身質の充実している時期で最も旨い。抱卵と共に、粒が大きく成長してゆくが、抱卵前のウニのほうが遥かに甘みが強くて旨い。

赤ウニと白ウニとの比較
 東京のすし屋が好んで使うウニはキタムラサキウニ(通称、白ウニ)である。色は薄い黄褐色をしている。エゾバフンウニと比較すると、甘みは単純で薄めであるが、粒が大きく、身質がしっかりしているため身崩れしにくく、ボリューム感がある。しかし値段をキロ単価で比較すると、エゾバフンウニより遥かに格安である。ウニの産地である北海道及び関西地方、フランス料理の世界では俄然エゾバフンウニ(通称、赤ウニ)が珍重されている。旨み、甘みが濃厚で強いからである。だが身質が柔らかく、崩れ易いという欠点がある。
 かくして、ウニの漁獲量の激減と、旨さの微妙な変質の中にあって、15、6年前頃より登場してきたのが北方領土一帯の歯舞、色丹、及び国後島のエゾバフンウニである。

北方領土、国後島のエゾバフンウニ(赤ウニ)

 平成に入ってからのバブル経済の崩壊は、関西地方の景気に、より大きな打撃を与えた。その結果、それまで関西方面に集中的に出荷されていた北海道の赤ウニが、大挙して関東に流れ込んで来るようになった。当店でもこの頃より赤ウニと白ウニを臨機応変に使い分け始めたのであるが、やがて赤ウニの旨さに目覚め、赤ウニを専門に使用するようになっていった。ウニは、諸々の事情と条件によってかなり旨さの差異のある「すしネタ」なのであるが、それにしても、近年の漁獲量の減少と、旨さの変質は著しいようである。
 このような状況の中で、15、6年ほど前から突然、ロシア領となっている北方領土から赤ウニが持ちこまれるようになってきた。当初、当店に入ってきていた情報では旨さの点で、余り評判が良くなかった。しかし、その後の最適の漁場の選択と、適度の漁獲による生息密度の間引きは、さらなるウニの漁獲と旨さの向上に大きく貢献していったのだという。丁度その頃、当店のウニの仕入れは下北半島、道南の白ウニから赤ウニへと移行、さらに旨さの選別の中で、結果的に道東の赤ウニへと移っていった。
 そしてこの6、7年前頃より、さらに深くウニの旨さを追いかけて行った結果、甘みが強く、旨い赤ウニとして選別し、贔屓にしていった道東の産地は、単にウニの加工産地にすぎなかったことに気がついたのだった。そしてさらに追求していった結果として解ったことは、これらの美味しいウニの実質的産地が、驚いたことに戦後ロシア領となってしまっている北方領土の国後、歯舞、色丹の一部の地域だったことである。
 今回の秋山水産(株)行では、やり手の秋山龍人社長との昼夜に分けての延々四時間にも及ぶ質疑応答の中で、遂にこの北方領土の国後、歯舞、色丹島の赤ウニの存在と旨さが明快に解明されたのだった。秋山水産(株)は北方領土の赤ウニの国内最大の輸入業者であった。
 中でも国後島はいまだに最良の漁場を維持していると言う。昆布の生育状況、ウニの分布状況も素晴らしい状態にあるという。問題は密漁、乱獲による資源の枯渇であろう。国産のウニの二の舞を踏まないようにしなければいけないのだが…将来的には無理な話であろう。

漁法 ヘルメット潜水漁 タモ漁
漁期と旨さ
 6月半ば頃から9月末頃まで休漁となる。雄のウニが乳を出し始め、雌が産卵する時期である。資源保護の問題もあるのだが、この時期のウニは不味くなり、身質も柔らかく、流れやすくなってしまい、商品価値がなくなってしまう。秋山水産(株)もこの時期は輸入を中止すると言う。
漁場の良否
 国後島産はオホーツク海側は漁場が悪く、野付半島側が最高品質のものが獲れる。色丹島産は歯舞側が良く、歯舞産は西海岸側が良品が獲れる。択捉島産は良くないと言う。
識別
 殻と、身質の外見上の色、姿形は国産の赤ウニと全く同じである。なんと言っても全く同じ種類のエゾバフンウニなのだから。しかし、味見をしてみればその違いは明白である。甘みと旨さの濃厚さが決定的に違うのである。かつての道南、道東の素晴らしく甘くて旨かったウニたちの凄さをいまだにしっかりと持っているのである。
加工方法
 塩2パーセント、焼きミョウバン1.8パーセントの水溶液の中で30分浸す。他の添加物なし。
◎「ウニの加工の際のミョウバンの使用量は常に一定である。苦み、渋みの発生の最大の原因はウニの品質の程度の差によるもので、ミョウバンの量の多寡のせいではない」と秋山社長は言うのだが…。
◎「道南の白ウニのスペシャル箱の作り方」 塩は使わず、3パーセント溶液のミョウバン水に漬けると、身が締り、粒が立ってくる。その身をたてるようにして箱にびっしりと詰めるとスペシャル箱となる。色が綺麗で、粒がしっかりと立ち、いかにも鮮度が良いように見え、すしに握ることも可能だという、最高級の値段のつくウニをスペシャルと言う。
出荷方法
 道東のウニは、全て空輸便で出荷される。「追っかけ」の流通方法がとられている。
漁獲産地名
 秋山水産(株)では、北海道のほぼ全ての産地のウニを扱っている。出荷の際、ロシア、道東その他、各地の産地名は、それぞれ必ず明示していると言う。流通段階でこれらの産地名が消えてしまい、産地不明のウニになってしまうのである。
◎身質が太ってくると抱卵期を迎え、苦みが出てくる。雌の方が、苦み、エグミが早く出てくる。
◎北東の風に乗ってやってくる流氷は、大量のプランクトンと栄養源を運んできて海を豊饒なものにしてくれる。また海底の雑草を除去し昆布の生育環境をも良くしてくれるのである。流氷が着岸しない年は、魚介類が不漁になるという。
◎ウニの餌となる昆布は、食用の上質のもの程旨いウニとなる。だから、国後島、利尻、羅臼、道東のウニは上質なのである。
◎北海道、各地のウニの特徴は、日本海側産は色は良いが甘みが薄く、道東産は全体的に色がくすんでいるが甘味が強い。道南産は比較的色は良いのだが、最近甘みが薄くなってきている。
◎ロスアンジェルス産の少しミルクっぽい味の白ウニは、アラスカより剥き身でロスへ運ばれてきて、加工されたウニであったが、人件費のコストが高くて採算が合わず昨年より市場から消えてしまった。
◎秋山水産は、長年の実績と、独特のノウハウによって、ロシアと将来にわたる大きなパイプを持っているらしい。やがて近い将来、北海道最大の一流産地荷受け兼、加工業者となるであろう。    平成11年4月

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福士水産(株)、(有)ホクエイ 行
北海道利尻郡利尻富士町鴛泊字宇野塚28
          平成13年7月20日〜22日

北海道、利尻島の赤ウニ…エゾバフンウニ

北海道のウニの産地と漁期
 毎年11月半ば頃から順次解禁となってゆく道南、道東各地のウニ漁は、翌年の5月の末頃に到って、次々と禁漁に入ってゆく。そして6月の下旬頃までは漁期内の留めものと、密漁もどきのウニによって、なんとか美味いウニの仕入れをつないでゆくことになる。しかし今年は、6月の中旬に入る前頃に、ぱったりと甘みのある美味いウニの入荷が途絶えてしまった。
  苦みがあったり渋みが強かったり、あるいは駄目な安物の豆腐のように、間の抜けた旨みのないウニばかりになってしまった。そのために、秋山水産のウトロ産の赤ウニを選別して使うことになったのだが、甘みが少し足りず、苦みがあるものも混じるため、非常に選別が難しかった。最後の手段として選別することもある米国ロスアンジェルス産の白ウニは、独自のミルクっぽい感じの甘みはあるのだが、どうも生臭い味が残るので使用不可であった。
 だから、6月末頃に解禁になるはずの利尻産ウニの入荷を、熱く熱く心待ちすることとなった。この時期、7月から9月にかけて解禁になるウニの産地は、常磐・三陸と北海道の松前から奥尻、積丹半島、利尻、礼文にかけての日本海側だけとなる。これらのウニは暖流系のもので、寒流系のウニとは生態が異なり産卵時期が違うからだ。寒流系のウニと比較すると少し甘みが薄く、旨みに負ける面がある。しかしこの時期、他の寒流系産地のウニは全て禁漁期間中で産卵期に入っており、苦み渋みが強く、旨み甘みが全く無い。
 暖流系ウニの産地の中では、北海道産のものがより優れて旨みがあり、その中でも最も甘みが強く旨みがあり、味に癖の無いのが利尻産のウニなのだ。
 道南から松前、奥尻、積丹、利尻、礼文にかけてのウニの産地では、白ウニのキタムラサキウニと赤ウニのエゾバフンウニとの両方が漁獲される。常磐、三陸地方では赤ウニのエゾバフンウニは全く獲れなくなってしまっている。

課題
 今年は7月中旬に入っても、未だ全く利尻島産のウニが入荷してこない。どうなってしまったのだろうか。産地では大不漁年なのだという。利尻のウニはどのような状況になっているのだろうか。この疑問を解くために築地市場の荷受である大都魚類の紹介で、利尻産のウニの加工・出荷業者である福士水産を訪ねる。

福士水産(株)行
 35度を超える猛暑の中を空路、稚内経由、フェリーにて利尻島に到る。利尻島は摂氏19度、快適な気温だ。少々風強く寒さを感じるほどで、持参の上着が役立った。利尻行きフエリーの満員の乗客年齢層に驚かされる。平均年齢60歳前後に見える。70歳を超える方達も多くいる。しかもそのほとんどの人達が皆一様に登山支度をしている。日本最北の名山、1,700メートル級の利尻富士を目指して来ているのだ。中高年齢層の登山ブームとエネルギーに感心させられる。
 
 今回の訪問先は利尻島の名門産地荷受け・加工業者である福士水産だ。到着早々、常務の福士秀康氏に連絡をとる。翌朝から丸1日、小生のウニの勉強に付き合ってくれることになった。
 翌朝、曇り後雨後晴れの忙しい天気の上に、少々風が強く、海は時化気味の様子であった。本日のウニ漁はできるのだろうか。

利尻のウニ漁の現状
 利尻島は周囲60キロにわたる島の利点を生かし、かなりの風による時化の時でも反対側の漁場では出漁出来ることが多いそうだ。利尻の現在の総人口は約9,000人。利尻のウニ漁に従事する漁師数約340人。利尻島の漁協は4単協から構成される。13ヶ所あるそれぞれの漁場で、毎朝一番に漁の可否を告げる旗が揚がると言う。凪ぎの日には、漁師達は午前3時には船を出し、その日の最適の漁場探しをする。この漁場探しがその日の漁の勝負のアヤとなる。そして午前5時から6時半頃まで、あらためて出漁をすることになる。
  昔はウニのサイズが大きく、ヤスで突く「突き漁」であったが、最近ではサイズが小さくなってしまっているため、タモ網ですくい獲る「タモ網漁」となっている。ウニ船は一人乗りの小船で、ウニ漁での操作は手と足と身体全体を使っての微妙なバランスと熟練を要する。そのため一人でも余計に乗るとバランスが取れにくくなるのだそうだ。残念ながら、今回は船上での漁のもようの見学は出来ないらしい。
 漁師たちは、漁が終わるとそれぞれの集荷場にウニを持って集まる。殻を割り、ウニの中身を海水の中へそぎ落し、夾雑物と腸等を綺麗に洗い落とし、ザルの中で水切りをする。午前10時からの漁協での入札は、この剥き身の状態で行われる。ウニは漁場と漁師によって品質に大きな開きがあり、これらが入札での大きな要素となる。
 鴛泊のフェリー乗り場に近い漁場は漁獲量が多い。島の南西に位置する鬼脇は10年前頃までは最高品質を誇っていたが、今では仙法志が最高品質のウニを漁獲している。各漁場でのウニの保護育成と漁獲サイズ規制の厳格な所ほど結果的に良いウニが獲られるようになっていると言う。

漁獲量の激減
数年前より、隔年毎に微妙に変化してきている漁獲量の増減は、今年に入りまさに大不漁の様相を見せ始めている。例年の4分の1程度しか獲られないのだ。この数年海底での死にウニの数が増え、今年はさらに多くなっている言う。産地では水温が高くなっており、温暖化の影響だろうと推測されている。
 そのため6月20日の解禁当初から7月の中旬にかけては、利尻島内での観光用の消費に回すことで精一杯となり、島外への出荷はほとんど出来ない状態であったと言う。
 今年はNHKの番組による利尻・礼文島特集と、航空運賃の割引、大手旅行会社の積極的なツアー企画による利尻、礼文島の大ブームで、島内でのウニの消費量もそこそこのものになると言う。この7月20日を過ぎてやっと漁獲量も少し増えてきたため東京、大阪にも少量出荷されるようになったらしい。

産地加工出荷業者
 島内での産地加工出荷業者は、「福士水産」「ホクシン」「丸一道場商店」「蛸島水産」「〆千高橋水産」の5社で、これらの業者が入札、加工、出荷をしている。例年では、これらの業者を通して道南、道東の大手の加工業者にもウニの原料が出荷されていたのだが、今年は漁獲量が全く少なく、これら他地域の業者にはほとんど出荷されていないし、その余裕もないようだ。だから今年の利尻、礼文島のウニは利尻島の産地加工・出荷業者達のほぼ独壇場となってしまうのかもしれない。

福士水産の創意工夫
 福士水産は、ウニの世界ではかなり独特な発想を持ち、旨いウニを生産するために積極的な創意工夫をしてきた。今でこそ産地及び消費地でも一般的によく見られる、「海水ウニ」の開発・加工・出荷の先鞭を付けたと言う。また数年前から現われた木箱の枠が高く、弁当箱と呼ばれているウニ箱も、人件費の省略と節約の結果だと言い、これもまた一般に多用されるようになってきている。

「ホクエイ」のウニ

苦み・渋みの発生原因の追求と除去の工夫
 今期から長男の秀康常務が独立し、同じ加工場の中で「ホクエイ」の別称のもとにウニの加工出荷をするようになった。
 彼はウニ自体が産卵期に自然発生させる苦みや渋み以外の、他の原因による不必要な苦み渋みを取り除くことを研究し、材料費の上乗せを承知の上で、その成果を生かしている。輸入材で作られる安価なウニ箱には独特な渋みと悪臭がある。コボ紙という無味無臭のつるつるの紙をウニ箱の底板の両面に貼り付け、材質の持つこの欠陥を押さえこんでしまおうというわけだ。
 ウニの苦み渋みの原因として輸入材による木箱の材質と臭みに注目したのだ。確かに木箱の底にへばり付いているウニは独特の嫌な臭みと苦みを付けていることが多い。このコボ紙を貼ることによってウニが綺麗に無駄なく剥がれ、ウニの乾燥も止めることが出来るという一石二鳥の結果となった。

加工場にて
 ウニの加工場では、ウニの殻を剥き、海水の中へ落としてゆき、トゲや腸その他の内臓や夾雑物を取り除き、さらに3度も海水の中で洗われ、ザルの中に丁寧に並べて、水切りをしているところだった。腸などの内臓の付着は苦み、渋みの原因になる。海水は天然の物が使われ、ウニの身質を固めるために最小限度のミョウバンが溶かし込まれている。これは消費地への輸送、流通の中での身質の保護保全のために必要最小限度の条件なのだ。
  ウニは、十分に水切りされると海水と共に最小限度のミョウバンも流れ出し、ほとんど口に残らないと言う。ウニは水切りが容易になるように常に斜めに置かれている。防腐剤その他の添加物は一切使われていない。
 洗ったばかりのウニと、十分に水切りされたウニとを比較し、試食をしてみた。洗ったばかりのウニには、ウニの微妙な甘みを消しかねないような濃度の強い海水の塩分と共に、はっきりとミョウバンの渋みが残っていた。
 丸一日、十分に水切りされたものは、適度の塩分とホンの微かしかミョウバンの渋みが感じられなかった。ウニは漁獲されてから、殻付きのまま一晩冷蔵庫の中で眠らしておくと、水切れがかなり十分に出来、ウニ自身の身質も固まり、箱詰め加工の仕事がし易くなるという。

弁当箱の登場
 地下の加工場では、ウニの箱詰め(折り詰め)が行われていた。この箱詰めに従事する女性達の平均年齢はかなり高い。一箱の折詰めにかかる所要時間は約28分。道南、道東のベテラン達は10分ほどだと言う。
 箱詰めを綺麗に早く、ロスも無いようにするには、高度のベテランの技術が必要とされる。だから、もう一つ簡単な箱詰めの方法として、箱の4辺の高さを出すことによって、重ねたウニの上辺が引っ付かないようにし、箱詰めも簡単にする弁当箱の採用と普及の方法が出てきたのだ。時間の短縮と人件費の節約にもなる。この弁当箱の工夫と普及も福士水産からのものだという。

塩蔵ウニ
 綺麗に掃除をされた赤ウニを塩分濃度の高い塩水の中に数10分漬け込み、ザルの上で完全に水切りをしてから壜に詰めこむ。ミョウバン、防腐剤等は一切使用されない。冷凍で保存され、流通して行く。加工業者によってかなりの味付けの差がある。酒肴の珍味として、熱々のご飯に乗せても旨い。白ウニは甘みが薄いため、塩加減の味付けは別法となる。

ウニの漁期が短い理由
 8月の中旬、産卵時期が近づいてくると苦み・渋みが強くなってくる。そして9月早々に始まる赤ウニ、10月から始まる白ウニの禁漁は、その期中に産卵が全て終わり、ぺたぺたに痩せた身質は約9ヶ月をかけて少しづつ戻って行く。甘みもまた少し増してくるのだが、5月頃まではまだ身質が痩せているうえに、まだまだ甘みが足りず、柔らか過ぎて箱詰が難しいのだと言う。
  利尻島のウニの甘みが強くなり、身質がしっかりと固まって加工し易い時期になるのは6月中旬頃からであり、解禁はまさにその時期を示していることになる。なおエゾバフンウニの漁期は6月末から8月末まで2ヵ月間である。8月末頃の時化にぶつかると一斉に放卵、受精を始め、苦み・渋みの発生も始まり、旨さの実質的な漁期は終わることになる。一方、キタムラサキウニの漁期は9月末までの3ヵ月間となる。この漁期は、道東・道南のウニの漁期に比べると異常に短い期間となる。

赤ウニ=エゾバフンウニの雌雄
 色の赤いのが卵巣で雌となる。卵巣のため崩れやすく、甘みは強いのだが苦み・渋みが出やすい。
 色の白いのが精巣で雄となる。精巣のため崩れにくく、甘みが少し足りないがクリーミーな味わいで、苦み渋みが少ない。
 ピンク色のものは崩れにくいので箱詰めなどの加工がし易く高値となる。
 黄色は柔らかく崩れやすい。
 深場に生息するウニは、色が茶黒くなっている。また養殖昆布の下には餌が豊富なため数が多い。
 バフンウニは旧盆頃を境にして産卵期に入って行き、味が落ちてゆく。卵巣の赤と黄色いウニは次第に大きくなってゆく。ピンク色の精巣は放出後色が濃くなって行き、サイズが小さくなってゆく。

ウニの甘さ・旨みと、渋み・苦みに対する正当な評価
 ウニは加工技術の差と産地、漁期により見事に値段に格差がつけられる。この格差は本来は旨さに対するものだった筈だが、最近では「見てくれ」を良くするための、ミョウバンの過度の使用による加工技術と、加工業者の過去の栄光と信用によるブランドがいまだに重視される傾向が強い。そのために甘み、苦み、渋みに対する評価が曖昧になっている。
  これは、最終的に素材として使用する料理人達が真剣に旨さの面からの正当な評価を怠っているからだ。ウニは本来甘く、旨みの大きいものなのだ。「見てくれ」を良くするためのミョウバンの使用過多による渋みの発生など、本末転倒もいいところなのだ。ウニの業界での市場主義は、売れれば良い、売れるためならどんなことでもする傾向が強い。旨いウニをあたら不味くしてしまっても平気な業者達が増えている。

ウニの不漁の原因
 今年の利尻産ウニの漁獲量は例年の4分の1ほどだという。
 海藻や昆布の成長が早く、海底に大量に繁殖しているためウニが隠れて見えず、タモ漁では獲ることが出来ない。“草覆いが多いために獲られない”と言う。
 また海水温が急激に高くなることが多発している。水温が急激に上がると海底と表層の水温が適正に混じらず、浅海の海水温が高くなる。ウニの生息水温を超えることになり、海底で大量のウニの死骸が発生することになる。

雑記
※利尻昆布
 宗谷管内の昆布は全て利尻昆布と呼ばれる。礼文島の1部の昆布が最高品となる。
 漁期〜7月15日から9月の始めまで。若芽の昆布が良質である。
※サハリンのウニはどう言うわけだか常に苦み、渋みが強く旨くないのだが、年に3回も産卵期があると言う。この産卵時期の長さが原因なのだろうか。
※ 利尻での主な漁獲魚は毛がに、カレイ類、メバル、アイナメ、カジカ、ホッケ、ソイ。
※ 利尻・礼文島では冬季には海が荒れてほとんど漁が出来ない。
※ 蛸はミズタコ(ホッカイマタコ)と足の細長いヤナギタコとがいる。秋口の1ヵ月位が禁漁期となるが、後は通年漁獲される。ヤナギタコはミズタコに比べて卵のつぶが大きい。ミズタコは小さいサイズのものは雌雄一緒で選別されずに売買されるが、大きくなると雄と雌は別々に選別される。雌が美味として高値を付ける。
※ ウニ、アワビは「ドングイ」の葉を食べさせると成長が早くなる。しかし「ドングイ」臭くなるため出荷前には昆布に交換する。
※ ヒラメは10月から11月にかけて漁獲されるが、身質がよく締りタップリと脂が乗っている。この時期、築地市場にも出荷される。

利尻4単協、礼文2単協の赤ウニ、白ウニの年度別漁獲量



※ 平成8年より12年の5年間平均では、白ウニは赤ウニよりも剥き身での比較で、キロ単価約35パーセント安い。     平成13年8月3日

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塩イクラと鮭(サケ)

(株)山十前川商店 行
         北海道根室市 工場、標津郡標津町
               平成14年10月12日〜14日


待望の標津、山十前川商店行
 平成11年12月。築地市場の25年来にわたる仕入先である北晃水産の紹介で、北海道根室市の山十前川商店の社長、宮坂氏が来店した。その時、大きな期待と共に、来秋の塩イクラ加工の最盛期に、標津工場訪問を約束したのだった。しかし、なかなか予定が採れず、今回の標津行きは3年越しに、やっと実現の旅であった。
 道東、標津在の山十前川商店を訪ね、塩イクラの生産現場を見学、勉強をすると言うことは、10年来の強い願望であった。塩イクラの世界には、東京にいてはどうしても理解できない、謎に満ちた生産加工技術の世界があるからだ。
 最高級品の塩イクラは、外皮は硬からず柔らかからず、口中で噛みつぶされる円熟した卵の旨みは、複雑だが優しい甘みと共に、ネットリと歯に舌に絡み付いてくる。絶妙な塩分の甘みは、さらに旨さを濃醇なものに引き立てる。この塩イクラの美味な味付けの加工技術は各社独自の秘伝であると言われる。
 しかし、しかし、この秘伝を、秘伝故に、是非とも識りたいではないか。
 山十前川商店は、塩イクラの加工業者としては50年の実績を持ち、北海道産の最高級の塩イクラを出荷してくる会社として有名である。
 だから、そのイクラ加工現場で、最盛期の生産加工の全工程をつぶさに見学することが出来れば、疑問の全てが解決するのではないか、との期待が大きく膨らむのだった。

塩イクラと醤油漬け込みイクラ

 近年、東京のすし屋、料理屋の中で、料理に既製品の塩イクラを使用すると、まるで手抜きをしていると非難をする風潮がある。たしかに自家製の漬け込みイクラは好みの味付けが自在に出来、料理の世界では、これこそ料理人の正当な仕事と評価されている。当店でも醤油と酒による自家製の漬けこみイクラを作成するのだが、それはあくまでも当店独自の味にこだわるからだ。しかし、それによって塩イクラの旨さの評価を軽視しているわけではない。旨いものは美味いと正当に評価しなくてはならない。
 市販の塩イクラの大半を占める、添加物が酸化した脂の臭いや、蒸れたひなた臭のするもの、外皮が柔らかくドロップの汁でぴちゃぴちゃの気の抜けた味のもの、外皮が硬くピンポン球のような滑稽な味のもの等、旨さの片鱗も無いものを塩イクラの評価の対象としてはいけない。塩イクラの最高品の味付け加工は、どう逆立ちをしても一般の料理人には決して手の出せない世界なのだから。
 だが、塩イクラが最も際立って旨さを発揮するのは、熱々のご飯の上にたっぷりと乗せて、豪快に食した瞬間ではないだろうか。噛み砕かれて流れ出した熟成のイクラの旨みが、熱々のご飯の旨さに増幅され、渾然一体となって口中に広がった時ではないだろうか。だから塩イクラにとって、江戸前の握りすしは、必ずしも最適の相性ものとは言い切れないところがある。

イクラの旨味と加工技術
 昭和40年、僕がすし屋の世界に入った頃、北海道の塩イクラは、江戸前すしの世界では既にもう、ウニと共に、最高級品ネタの一つとして人気になっていた。1人前の上鮨にも欠かせないすし種となっていた。
 当時当店が使用していた塩イクラの生産者名は、熊が笹を担ぐ絵がトレードマークの「熊笹」であった。この塩イクラは見事に美味かった。生イクラの旨さを、さらに絶品の旨さに作り上げていたのだった。
  こってりと脂の乗ったイクラは、朱色に大きく膨らみ、口中に絡みつくような熟成卵の旨みは、硬くも柔らかくもないイクラの外皮までも、ほどの良いねっとりとした優しい旨みに変え、残存感を感じさせないものであった。ただただ濃醇な旨みと香りを舌の上に、歯の間に、口中いっぱいに残すのだった。この熊笹の旨さは、当時、他の生産者の追従を許さなかったのではないだろうか。
 30年も前、僕にとって、この生のイクラが加工され、塩イクラの状態になるのが不思議でしょうがなかった。熊笹の絶妙な美味を持った塩イクラの加工技術を識りたくて、うずうずしていたのだった。
 その頃、ずいぶん関係方面を聴きまわったものだった。そして入った情報は、塩イクラの加工は高度な職人技であり、一切公開されず、味付け加工時には、職人以外の全ての人を工場の外に出させ、密かに行われると言う偏狭な職人芸の世界の話であった。門外不出のマル秘の職人技であった。
 職人達は通常、道南地方に在住し、晩夏から晩秋にかけ、イクラの加工時季になると、道東方面に出稼ぎに行くのだと言う。まるで、日本酒の杜氏集団のような話であった。だから当時には結局、加工技術の解明は出来なかった。

大豊漁と価格の暴落。最高級品加工業者達の倒産
 この頃、各地の川で鮭の卵の孵化と稚魚の放流が成功し、3年から5年生の鮭の大回帰が始まった。それは、鮭の大豊漁となり、塩イクラの大量生産につながり、塩イクラの価格の暴落が始まった。品質的にも中級から下級の、安価な塩イクラが大量に流通して行った。
 この時、意外な現象が起こった。すし屋、料理屋達が、価格の暴落に便乗し、さらに使用している品質等級までも落としていった。だから、飲食店達は2重の利益を手に入れることになった。この現象は大きなうねりのように広がって行き、その結果、最高級品質の塩イクラが売れなくなっていった。悪貨が良貨を駆逐してしまったのだった。そして、さらにその結果、最高級品を製造していた幾つかの加工業者達が倒産していった。「熊笹」も例外ではなく、この時に消滅してしまった。当時、山十前川商店も大きな試練に立たされたという。
 だから今回の山十前川商店への旅は、長年の謎解きとなる大きなチャンスであり、待望の旅となった。

山十前川商店にて
 羽田発8時45分、中標津着10時25分の飛行は、10分遅れでの到着であった。快晴の中標津は、東京とほぼ同じ気温で暖かく迎えてくれた。レンタカーでの標津、山十前川商店着は、なんだかんだと寄り道をしているうちに12時近くになってしまった。加工工場では、もう午前中の一仕事を終え、昼食の休憩時間であった。久しぶりの再会である宮坂社長は、次から次へとかかって来る電話の応対に多忙であった。多忙の中、さっそく工場の社員食堂に案内された。前日に出来たての塩イクラと醤油イクラでの豪華な昼食だ。
 美味美味美味!! しかし、前日に出来たての塩イクラは少し微妙に塩分が強かった。この塩イクラは一度冷凍され、来年の春先から初夏の頃になると塩味が熟成されて絶妙の旨さになると言う。醤油イクラが美味であった。この醤油イクラは、割り醤油に漬け込まれて作られるという。今回、初めて知った製品である。味付け加減が素晴らしかった。

山十前川商店の加工技術
 事務所の壁には前川商店のイクラの商品案内ポスターが誇らしげに、美しく張ってある。ポスターの最大のキイポイントは、卵の「生もみ」であった。

「生もみ」と「改良もみ」

(1) 水揚げされた鮭の卵がまだ生き続けている時間は約6時間。生きている卵はまだ呼吸をしている。
(2) 卵の熟成度の高い、川に遡上する直前の、「雌ブナ」と呼ばれる婚姻色の発色した鮭の卵は、 表皮が最適に柔らかく、たっぷりとした脂と旨みが乗っている。
(3)加工工場は、鮭の水揚げされる漁港と至近距離にある。
  以上の条件の下に、「生もみ」が行われる。

「生もみ」
1)鮭の腹を裂き、まだ生きている腹子を開き、程よいサイズの弾力性のある網目の上で擦り付け、 たたき、さらに擦り付け、なぞり付けながら、卵をばらしてゆく。
2)このばらした卵を、すぐに100パーセントの飽和塩水満タンのタンクの中に落として漬け込む。
3)20分余、上方から真っ直ぐに降りている撹拌羽根で撹拌する。生きているイクラの卵はまだ呼吸をしている。この20分間余りは、ちょうど1回目の呼吸の時間なのだそうだ。生きている卵の塩分の吸収率は2.3パーセントから2.5パーセントにしかならない。この塩分の吸収率が最高級品となるイクラの最適の旨みとなる。この間、卵の中で死んでしまったものは、急激に塩分を吸収し、パンパンに膨らみ、自重で下に沈んでしまう。
4)タンクの中にザルを入れ、撹拌と遠心力によってタンクの底に沈んだ不良の卵を除去し、生きている良質な卵を大きなザルの中にすくい上げる。生きている卵のみをすくい上げるために、大きなロスを出すことになる。「生もみ」は歩留まりが良くなく75パーセント程度の生産量となる。
5)選別された良質なイクラをザルに入れたまま24時間、低温維持された部屋で水切りをする。イクラはしっとりとした脂と旨みを湛えながら、見事にぷっくりと水切りされている。これは、イクラがまだ生きている内に処理されるからなのだと言う。
6)完全に水切りされた、できたてのイクラを、布を敷いた木製の1キロ箱に詰める。そして冷凍保存され、消費地からの需要に応じて出荷されてゆく。

「改良もみ」
 卵を筋子の房に入っている状態で1回塩水に漬け、卵の表面を固める。柔らかい鮮度落ちの卵や、死に子の卵も締めて固めることが出来る。さらにイクラにばらした後、もう一度塩水に漬け、味付け加工する。改良もみ加工のイクラは、解凍後、不良卵が溶けることが多く、大量のドロップの原因となる。二流、三流品の目方を増量するための誤魔化しの加工方法とも言えそうだ。

イクラのドロップ
 山十前川商店の塩イクラは、解凍してもドロップと言われるイクラからの水分の流出は全く発生しない。下に敷かれた布は見事に乾いたままだ。冷凍保存の間に塩分は熟成され、まろやかな味に仕上がっていくのだという。一般には、8月から9月中旬頃のシ−ズン初めのイクラは卵の皮が薄く、解凍後に破れることがあり、ドロップの原因になる。そのため、この頃までのイクラは、醤油漬けのイクラにされることが多い。醤油を吸って卵が膨らみ、皮もしっかりとし、ドロップのロスが少なくなると言う。
「生もみ」による塩イクラは、10月上旬から11月上旬にかけての熟成最上卵の状態のもので加工される。解凍されてからの塩イクラの水分のドリップは、この期間のイクラならば、漁獲時期の早い遅いは全く関係ないと言う。だから山十前川商店の最高級ランクの塩イクラは、10月中旬から11月中旬の間に集中的に作られる。卵の状態が最高の「雌ブナ」の漁獲時期となるからだ。

筋子をイクラの状態にばらす秘密兵器

 秘密兵器となるイクラをばらす時に使用する網は、直径1メートル位の円形の大きさで、ステンレスのタンクの上面に張られている。この秘密兵器は、上下、左右に伸縮性があり、それゆえにイクラのばらしに最適なのだが、テニス、バドミントンのラケットのネット面でも十分に代用されると言う。25パーセントのロス扱いされる塩イクラは、おにぎり用として別途に流通して行くという。
 山十前川商店が作る最高級品イクラの加工方法の秘法はこれで全てであると言う。
 何故だ?……。たったこれだけの加工方法で、何故あの美味い絶妙な味わいの塩イクラが出来るのだ。
 添加物は?
 調味料は?
 保存料は?
 発色剤は?
 休憩中の宮坂社長に、挨拶もそこそこに質問をぶつけてゆく。

(1)生イクラの状態での美味さの良否の見極め方は?
 川に遡上する直前の、体色が婚姻色に変化してきている鮭をブナと呼び、その雌ブナの卵が最も脂が乗り、旨みがたっぷりと含有されている。僕の築地での仕入の経験知では、卵は少し朱色っぽい方が脂が乗って旨いのであった。しかし、プロの職人の見分け方としては、表面の卵の色調では、少し朱色が薄めに感じられるものは脂が乗って美味く、高品質のものなのだそうだ。
(2)イクラの最上品が獲られる時期は?
 毎年10月中旬から11月中旬にかけて獲られる雌ブナのイクラが最上品となる。卵全体に最も脂が乗る時期となる。外殻までもしっとりとした脂の乗りを見せ、程よい絶妙な柔らかさを見せるようになる。イクラ独自の最高の旨みをしっかりと内蔵し、食べても外殻は全く口中に残存しない。
(3)イクラの粒の大きさは、美味さに関係しているか?
 鮭の放流から回帰までの平均年月は、約4年。平均重量は3.3キロ。昨年度の標津漁協での漁獲量は史上4番目であったが、魚体も平均より大きく、平均約3.5キロであった。回帰年数も5年から7年ものの比率が多い。卵の大きさは、必ずしも旨さの優劣に関係ないようだ。
  今年の前半は卵の成熟が遅く、卵のサイズも少し小さかったが、後半は大きく成長してきた。9月13日現在、今年は史上5番目の豊作で、前年比75パーセントであるが、鮭の全体のサイズは大型化している。
(4)味付け、加工用の塩は何を使用しているのか。
 福島県、いわき市で製造されている自然海水塩、キングソルトを長年使用。専売法が施行されている年月の間も、この塩を使っていたと言う。
(5)添加物の使用は?
 一昨年まで発色剤を使用していたが、昨年より多少の発色のための利点を無視し、一切の添加物の使用を中止した。調味料、保存料は今までも使用されていなかった。
 通常使用される代表的な添加物は、グルタミンソーダ。味の付加と共に重量の加重に使われる。独特の異臭がある。塩イクラの酸化した脂の臭いと、日なた臭さの原因となる。回転すし等の安価な店は、ドブ漬けの醤油イクラを使用する。グルタミンソーダによる増量は、110パーセントもの加重となる。

 とすると…、山十前川商店の塩イクラ加工の秘伝とは、
「生もみ」、「飽和塩水」「漬け込みの時間」「水切りの時間」の妙が全てである…、という事になる。

  信じられない!! あの塩イクラの絶妙な旨みが、たったこれだけの簡単明瞭な仕事で出てくるとは。
 本当であろうか? 長年の疑問、秘密、謎の回答がこんな単純なことであったとは。なんの添加物も使用していなかったとは。かって「熊笹」の塩イクラの調査をしていた頃、オリーブオイル使用という話も聞いていたのだが。なにか隠された秘密の仕事をしていたのではなかったのか。
 しかし、この単純さの中にあっても、見事な素材の厳選があった。
(1)遡上直前の雌ブナであること。
(2)まだ呼吸している生鮮度の高い卵であること。
(3)天然の塩を使用していること。
  この3点こそ、塩イクラの美味さを決める最も基本的で、重要な要件であった。

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鮭(サケ)

サケの種類
サケ科サケ属
(1) シロザケ…1)鮭児(ケイジ) 
         2)めじか
         3)時知らず
         4)秋味
         5)ブナ
         6)ホッチャレ
(2) ベニザケ
(3) ギンザケ
(4) サクラマス
(5) カラフトマス
(6) マスノスケ

1)鮭児
 2年魚のサケは抱卵せず、川には登らない。海を回遊中のこの若いシロサケを鮭児と言う。ロシアのアムール川を下り、べーリング海で育ち、ごく一部がオホーツク海で漁獲される。総漁獲量のわずか0.1パーセントしか獲られない。
 幻のサケと呼ばれ、キロ単価26,000円から30,000円にもなり、1尾10万円から10数万円程になるという伝説を持つ、サケの最高級魚である。
2)めじか
 ロシアのアムール川を下り、沿海州を通って南下し、オホーツク海に回遊、産卵の準備のために、さらに沿岸まで回遊してきたもので、一部は日本海側にも回遊してゆくが、三陸方面には回遊しない。産卵する25日から60日も前に漁獲されたもので、厳寒の北海の荒波に育ち、白子、卵に栄養分を取られる前で、丸々と太り、身にタップリとした脂が乗っている。秋サケの2倍近い値段の1尾8,0000円から1万数千円で取引される。
  水温が12度前後にまで下がる、10月下旬から11月上旬にかけで漁獲されるが、回遊コースは厳密にはほとんど解明されていない。漁獲量に占める割合は、0.6パーセントから3.1パーセント。皮目が薄く、身の色が皮目に出て、赤ピンク色に透けて見える。脂で鱗が剥がれやすい。漁獲量が極端に少ないため、識別も極めて難しい。市販されている大半は偽物だと言う。卵は小さく、少ないため塩イクラ加工は難しく、味付け醤油などの醤油イクラにされることが多い。

「鮭児」、「めじか」はロシアの1,000キロもの長さのアムール川を下って回遊、そして又川へ帰ってゆく。この長さを泳ぎきる体力の強さは、、日本のサケのDNAとの大きな違いとなっている。これが独自の美味さの源泉かもしれない。

3)時知らず
 5月から6月頃にかけて漁獲されるサケで、卵はまだ小さく未熟で塩筋子の加工に回される。身肉は大変美味で、脂がたっぷりと乗っているため鱗が剥がれやすいが、皮までも食べられる。最近では漁業区域規制が厳しく、カムチャッカ沖での操業が不可となって以来、日本近海での漁獲だけとなってしまった。塩分濃度、食用のプランクトン及び海中の栄養度の減少と変化による、サケ自体の熟成度の不足は、品質、旨みの低下の原因となっている。また直ぐに冷凍にし、冷凍戻しのサケの加工となるため、二重に品質、旨みの低下の原因となっている。
4)秋味
 大海を回遊している時にはメス、オス共に変わらないが、川に登る頃になるとオスの鼻が曲がってくる。
5)ブナ
 産卵のため、体色が婚姻色を帯び、いよいよ川へのぼる直前のサケを言う
6)ホッチャレ
 産卵、放精後の完全に痩せ細ったもので、商品価値は全く無い。
7)マスノスケ
 春先の定置網に入るもので、キングサーモンの一種であり、マスのスケとして  大変美味である。

◎銀メスの醤油付け
 8月中旬頃、近海に一斉に鮭が回帰してくる。この頃の鮭は、表面の皮がピカピカに光っている。この中の銀色のメス鮭は、銀メスと呼称されている。この銀メスの卵はまだ時期が早く、小さく、若く、卵の皮も柔らかいため、醤油漬けにする。醤油漬けは、9月いっぱいまでに作成する。まだ柔らかい卵の時期にあっても、ドロップのロスが出にくいからだ。
  醤油はキッコーマン。生醤油の場合と漬け汁で割る場合とがある。だから醤油イクラは、もっぱらこの銀メスの卵で作られることになる。山十前川商店の醤油イクラは絶妙な美味さを作り出している。
◎山十前川商店の塩イクラのランク付け
 加工されるイクラの時期と品質によって4通りのランクがある。特に通称「根標」と呼ばれる1キロ箱が特選品となる。
◎山十前川商店の木箱1キロ判の外面表示
水産庁長官賞受賞品
品名    塩いくら
原材料名  鮭魚卵(いくら)・食塩(無添加国内塩)
内容量   1キロ
保存方法  要冷蔵(-18℃以下)
原産地   北海道産(オホーツク海域)
製造者   (株)山十前川商店
賞味期限  2004 08
殺菌自主検査済み
◎オホーツク海のイクラと三陸のイクラの違い
 オホ−ツク海産のイクラに比べ、三陸も含めた太平洋産の秋アジは油脂成分を多分に保有しているが、水分の含有量が多く、卵の粒も大きいのだが、芳醇な旨みに少し欠けている。.殻の外皮は弱く、旨いのだが加工上のロスが出やすい。だから三陸産のイクラは、結果的に2等級品となる。
 オホ−ツク海産の生のイクラも最盛期には、コンスタントに築地に出荷していると言う。
◎体色の変化
 鮭は大海中では、オキアミなどの動物性プランクトンを食べているため、アスタキサンチンの色素により、身肉の色は紅色である。沿岸に近づき塩分濃度と、植物性プランクトンへの食性の変化により、次第に薄い紅色に変色し、卵の成熟と共にさらに色は薄くなり、川に遡上したものは、餌の不足により白い身肉となっていく。
◎道東の秋サケの現状
 この数年、豊漁貧乏に苦しんでいる。水揚げは順調なのだが、近年増加の一途をたどる輸入物の攻勢に、値段はむしろ大きく下降の現象を見せている。
 チリの銀サケ、ノルウエーのアトランティックトラウト、アラスカの紅ザケ等、世界中のサケが消費大国日本に流れ込んできている。昨年は国内ものに26万トン。輸入ものは28万トンとなり、この10年で約2倍に増加している。さらにサケの相場は、近年では輸入物が国内物を上回っている。
「輸入物は国内物より味が劣る」と言うのは昔の話で、脂の乗りの良さ、色の鮮やかさと言う点では、養殖を中心とした輸入物に軍配が上がり、消費者の嗜好も輸入物に流れている。北海道を中心に供給されているサケの60パーセント以上が養殖物の輸入サケなのだと言われる。
 しかし、これらの養殖サケには重要な問題点が多い。
1)養殖場の汚染
2)サケの感染症と病気の多発。
3)化学薬品、抗生物質、発色剤、ワクチン、栄養剤等の過剰な投与による人体へ の悪影響等、安全性に大きな疑問と危惧が内在している。
◎幻の鮭、鮭児(けいじ)がやって来た。
 11月25日。かねてより注文を出しておいた北晃水産から、幻のサケ、「鮭児」入荷の連絡が入る。
 北海道羅臼産の鮭児だ。羅臼漁協の証明書と鮭児の絵を描いた金属バッジが頭部に貼り付いていた。
 2.7キロ、キロ単価26,000円。これは凄い。ホンマグロの最高品の値段だ。歩留まり50パーセントとして、正味の身肉の値段はキロ単価52,000円也。これは凄い値段だ。10グラムで520円。15グラムで780円。握り一貫分が原価で、780円。しかしこれは、全ての部位の平均値だ。ホンマグロの各部位の計算方式でやると、ハラスの大トロの部位はキロ単価12万円近くになる。10グラムで1,200円となってしまうことになる。さすがに天下の築地のまぐろ屋サン達も驚き、ため息をついたのだった。
 何故か先入観があり、塩漬けのサケを連想していたのだが、見事に生の冷凍流通品であった。2.7キロの魚体は程よく丸く太り、頭は小さく、背肉が盛り上がっている。体表は、全体的には青味がかっている。脂が乗っているためと言うのだが、皮が薄く全体的に鱗が剥げ落ちている。腹側の尾に近い部位は身肉の朱色がうっすらと透けて見えるようだ。
 3枚に下ろす。皮を引く。各部位を薄くそい切りにする。毒見だ。尾に近い部位にもしっとりとした脂の旨みがある。背の中部位はさらに脂が強く、穏やかで柔らかな甘みと独自の芳香が強く口中に広がってくる。腹の大トロの部位を食す。十分に乗った脂の旨みは、決してこってりとしたものではないが、芳醇な旨さを内蔵している。
  冷凍による流通のためか、ホンマグロの血潮を感じさせる鮮烈な香りには少し及ばない。しかし、じっくりと咀嚼していると、キュウリのような、西瓜のような懐かしい爽やかな香りが鮮やかに蘇って来る。2歳魚だと言われる鮭児は、その旨さの中に、青年を思わせる若々しさを秘めている。ホンマグロの中トロの美味さに近いのだが、トロの濃厚さとは異なり、品の良い豊かな旨ささえ感じさせられる。美味美味、思わずため息が出てしまう豊かで味わい深い世界であった。お客さん達も全員、見事に納得の旨さであった。
 1,000キロメートルにも及ぶ母なる大地ロシアのアムール川上流を下り、沿海州・べーリング海を回遊すること約2年。しかし、いまだに生まれ故郷アムール川上流の川底の苔や植物などの匂いを、体内にDNAとして記憶し続けているのかもしれない。さらにこの故郷の香りを求め、再び回帰して行くのかもしれない。アラで澄まし汁を作る。素晴らしい旨みが出ていた。頭部の皮はゼラチン質で覆われぷりぷりとした食感だ。意外にも、まるでスッポンの丸鍋の旨さであった。うれしさの溢れ出る喜びの旨さであった。   平成14年12月3日

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