縞鯵と「青もの」の魚達


青ものの魚の種類と格付け
 縞鯵(島鯵・シマアジ)、勘八(間八・カンパチ)、平政(ヒラマサ)、ワラサの4種の背の青い魚達は皆アジ科の魚であるが、特にカンパチ、ヒラマサ、ワラサはアジ特有のゼイゴがなく、ブリ属というグループに入っている。すし屋の世界では「青もの」と呼ばれ、白身の魚達とは区別されている。
 しかし近年、身肉が白っぽいために白身の魚達と一緒の仲間にされたり、鯵、鯖、サヨリ、コハダ等の「光もの」の魚達が、一見背が青く見えるために「青もの」と呼ばれてしまったりと、互いに混同されているようなことが多々見うけられる。
 この4種は鯵の仲間であり、通例としての旨さの旬は初夏から中秋ごろまでなのだが、それぞれの魚に微妙な旬のずれがある。
 この4種の魚達の間には、漁獲量と身質の旨さ、文化的な伝承等の違いによって見事なまでに格付けがなされている。そしてそれは結果的には値段の差によって明示されることとなる。
 中級魚であるワラサを平幕級とすると、その上に高級魚である関脇級のカンパチとヒラマサが陣どっている。さらにその上の大関の位を飛び越えて、大横綱級に最高級魚であるシマアジがいる、と言った具合になる。これを見ても青ものの格付けの中では、シマアジは別格のずば抜けた位置にあることが判る。

 築地市場に入荷してくる天然の最高品で、活けの泳がせの状態でのセリ値を比較してみる。

     天然活けもの(キロ単価)     養殖活けもの(キロ単価)
ワラサ  2,000円前後           ハマチ(ワラサの養殖名) 1,000円から1,500円 
カンパチ 4,000円から5,000円前後     2,000円から2,100円
ヒラマサ 4,000円から5,000円前後     1,600円から2,000円
シマアジ 10,000円前後から15,000前後   2,500円から3,000円

◎価格的にはこれほどの格差がついているものなのである。この価格差は、最高級魚と高級魚、中級魚、大衆魚との間の価格差に匹敵している。
◎活けで入荷する養殖の青ものは、最近ではセリではなく「相対(あいたい)」で取引されることが多く、仲買人の店頭で包丁で活け締めにされる。それをすし屋が仕入れてゆくことになる。
◎この4種類の青ものの魚達の養殖は30年前頃より始まり、やがて各地で盛んとなり今や一年中市場に入荷してくる。値は安く、安定入荷するのだが、鰯を中心とした豊富な餌の投与による急激な成長は、鰯特有の臭みと身質の緩みを生じさせている。さらに過密な養殖場での魚の病気の発生に対する抗生物質の投与は社会的な問題を引き起こすなど、まだまだ課題が多いのが現状である。最近では、イワシなどの餌を乾燥、魚粉の状態にし、臭気を抜くことが可能となり、養殖魚特有の臭みを抑えた養殖ものが出回り始めている。
◎関東で飲食店が「ハマチ」と言ったり、書いたりした場合、「この魚はワカシ、イナダ、ワラサ、ブリの、ワラサの大きさの養殖ものである」と言う暗黙の了解のもとに表示したことになる。天然ものの場合にはワラサと表示する。

養殖魚の活け出荷
 60年代からの、トラック便による流通の画期的な進歩は、消費地での料理の世界にも大きな変革をもたらした。トラック便による活け魚の輸送が日常的に可能になり、魚の活け造りブームをもたらしていった。この流通の革新を最も有効に使っていったのが各産地の養殖業者達と漁協であった。

青ものの養殖魚による活け造りブームと魚の熟成の旨さの関係
 最高に旨い状態で魚を食べるには、諸々の条件を必要とする。
 一般的に最も重要視される「鮮度」はそれらの中の一前提条件に過ぎない。旨い魚を食べるには、鮮度の良さに、さらに適正な熟成の時間をかけてやらなければならない。すべての魚は、その魚独自の旨さの発揮のために、それぞれ独自の熟成のための時間を持っているからである。青ものであるシマアジ、カンパチ、ヒラマサ、ワラサは活け締めされてから最短、丸1日から2日の熟成の時間をかけてやる必要がある。その結果初めてそれぞれの魚特有の旨さが発揮されてくるのである。
 しかし、養殖の魚の場合には、最適の熟成の状態で食べると、本来の旨さとは裏腹に養殖魚特有の臭みと、過剰でべたべたな脂のしつこさと身の緩みが出てきてしまうのである。この欠点を打ち消すために養殖業者達はいろいろ知恵を絞った結果、活け造り、活け締めのテクニックを利用したのである。観光地のホテルでの生きているハマチでのぷりんぷりんの活け造り。消費地の市場で朝締めて、夜にはまだ身のぷりぷりしている活け締めの養殖のハマチ、ヒラマサ、カンパチ、シマアジ達の刺身とすし。これらの料理法は、それぞれの養殖魚の決定的な欠陥が表出してこない状態にしておくことによって、ぷりんぷりんの歯応えだけを最高の旨さとする、誤解と錯覚の旨さを前面に出していった養殖業者達の戦略だったのである。

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鰤(ブリ)


ワカシ、イナダ、ワラサ、ブリ
 ブリは出世魚である。ワカシ、イナダ、ワラサ、ブリと成長段階によって四回名前を変えながら九州から青森の津軽海峡にまで回遊の群れは現われて来る。日本海側も含め北海道を除く日本のほぼ全域で漁獲される。出世魚と言われる魚達は、それぞれの成長段階の状態で群れをなし回遊して行く。そして、それぞれの成長段階で旨さの旬を異にし、独自の旨さを持っている。

ワカシ
 初夏から夏の終わり頃にかけて漁獲され、汐子(しょっこ)とも呼ばれる。子供特有の淡白な味わいは、刺身にすると全く物足りないが塩焼きにすると特有の香りと旨さを愉しむことができる。値段は極めて安価で、キロ単価千円前後で買える。

イナダ
 夏場から中秋にかけて漁獲される。この時季、釣り人達の格好の獲物となる。大量に漁獲されるため、値も安く刺身の旨さとしてはまだ少し物足りないのだが、夏場の刺身として重宝がられる。相模湾の漁師達によると、イナダが豊漁の翌年にはアオリイカが不漁になると言う。これは夏の終わり頃に産卵するアオリイカの卵をイナダが大量に食べてしまうからだと言う。

ワラサ
 中秋から晩秋にかけて漁獲される。11月半ば頃より始まる10キロ級のブリ漁の、先駆けのようにして回遊してくる。たっぷりとした魚体にしっとりとした脂を乗せ日本海では隠岐、壱岐、境港辺りに現われ始める。やがて三陸から津軽海峡、青森県の鯵ヶ沢辺りに現われ、さらに能登半島から佐渡島の定置網に入り始めると本格的な旬の到来となってくる。この北陸のワラサはブリ漁と同じ時期にまでも漁獲される。さすがにブリの旨さと香りには及ばないが刺身は勿論のこと焼いても煮ても旨く、その旨さは他の産地のものよりも遥かに群を抜いたものがある。サイズ的にも使い勝手が良く一番重宝がられて使われることが多い。なお、近年築地市場には全国各地からほぼ通年に渡って切れ目なく入荷してくると言う。旬の見境がつけにくくなっている。

ブリ
 やがて晩秋、11月中旬頃より翌年の一月中旬にかけて、北陸の見事で華麗なブリの旬に入って行くことになる。

平成10年現況
 9月中旬、築地卸売市場では、北海道噴火湾より、早くも一本釣りと大謀網(定置網)漁によるブリの入荷が始まった。サイズは大小の混じりで、平均は8キロ前後である。
 やがて10月、津軽海峡でも獲られ始めた。青森県大間の一本釣り物だ。さらに、尻屋岬、尻労(ししかり)の大謀網漁も始まってきた。しかし、この時期にこれらの漁場で獲れるブリは、いまだ名ばかりで、脂の乗りはもう一つ、旨さも香りもまだ足りない。
 11月上旬、青森県の日本海側に位置する深浦、鯵ヶ沢の大謀網で、10キロ級のブリがあがり始める。そして11月29日、遂に、新潟県佐渡島の大謀網にブリが入り始めた。例年より少し遅めながら、いよいよ寒ブリのシーズンの始まりである。

寒鰤の回遊
 ブリの回遊のコースとしては、三陸から噴火湾、津軽海峡から日本海へ至り、佐渡島、富山湾へと回遊するコースと、玄界灘から境港、舞鶴から能登半島へと至り、さらに富山湾から佐渡島へ至るコースとの二通りがあるようである。ブリは晩秋から冬にかけ、日本海の佐渡島から富山湾で獲れ始めると、俄然旨くなってくる。冬型の寒冷の気象配置と、時化気味の荒涼とした日本海の海に、まるで誘き出されるようにしてブリの大群が押し寄せてくるのだ。スルメイカ、アジ、イワシの群れを追いかけてくるのだと言う。脂が乗り、甘みが増し、血潮の匂いを思わせる海の香りが、強く濃くなってくる。この時期の富山湾、佐渡島のブリは、九州から境港にかけてのブリよりも、顔がとんがり、眼も小さく見える。そして、畏敬の念をこめて寒ブリと呼ばれる。この寒ブリが旨い。見事に旨いのである。
 太平洋側のブリ達は、この寒ブリの前では魚の種類が違うのではないかと思わせるほど旨さに開きがあり、全く顔色無しの態である。

寒鰤のすしの旨み
 この寒ブリをすしに握る。ブリはたっぷりと贅沢に切り付ける。御殿場産の、おろしたてのいいワサビは、ブリの脂に負けないように、たっぷりと付けて握る。当然、煮切り醤油もたっぷりと塗る。腹側の砂ずりの部位は、見事にマグロの大トロに匹敵するほどの旨さである。大トロの好きな人には堪えられない味であろう。そして背の部位がさらにまた旨い。腹の大トロほどのしつこさは無く、程の良い脂の乗りは、そのみごとな香りと共に心地良く旨い。口に入れ、一口噛み締めたとたんに広がってくる鮮烈な香りは、佐渡の、富山湾の寒ブリの凄さ、旨さを遺憾無く伝えてくれる。これは、10キロを超える寒ブリ達の貪欲な食欲と、長旅にもめげぬ充実した魚体全体に蓄えられた豊潤な香りであり、積層の旨さの現われなのだろう。

富山湾、氷見の鰤

 12月に入り、上旬から中旬にかけ、青森も佐渡も連日の大豊漁である。青森1日4千本、佐渡1日3千本などの大豊漁が何日も続く。一方、昨年大豊漁で沸いた富山県の氷見から新湊にかけての富山湾は、その反動か、漁獲量がまとまらない。12月12日、200本弱。16日、250本。残念ながら、富山湾は今年、不漁年なのであろうか。
 富山湾は名だたる寒ブリの名産地である。中でも氷見、新湊の名は高い。特に氷見にいる産地荷受け業者たちの鼻息の荒さは凄い。鮮度良く、プリンプリンの身質の特上物の品質でありさえすれば、他の産地で出る相場の、遥かに高いセリ値でも平気で競り落とし、流通させていく。富山、石川県には寒ブリの独自の食文化があるのだ。歳末の贈答用に、正月の料理用に、伝統のかぶらすし用にと、大量のレベルの高い需要に事欠かないのだ。どんな高値でも取引されて行く。年末、天下の築地卸売市場では、ブリが不漁で、キロ単価1万円、1尾10万円を超えてゆくと、もう仲買人たちには、手を出せなくなってしまう傾向がある。しかし、石川、富山県では、この程度の値段は平気な様子で取引きされて行くと言う。こと寒ブリの相場に関しては、天下の築地も氷見には、全くかなわない有様である。

鰤の天然物と養殖物との逆転
 12月14日(月)、異常なことが起こった。
 佐渡、富山湾で獲れたブリは、通常、翌日の朝には築地市場のセリにかけられている。ブリは、いわゆる「追っかけ」の方法で流通される。産地では、日曜日は休漁日のため、月曜日に築地に入荷するブリは、土曜日の漁であり、通常の1日遅れとなる。この1日遅れのブリは、身質が少し柔らかくなっているのだが、充分に熟成され、脂が全体になじみ、旨みがはっきりと滲み出ている最高の旨さの状態となっている。
 この14日(月)入荷の佐渡、両津湾からの寒ブリは、あまりにも脂が乗り過ぎ、熟成された皮沿いの脂は、こってりと白濁していた。まるで養殖物の風であった。しかし、食してみると、タップリとした天然物特有のいい香りがある。
 これは少しおかしいじゃあないか。調べてみる必要があった。もし養殖業者がこれほどの養殖物を出荷してきたとしたら、これは凄いことである。脱帽ものではないか。この時期、築地に出荷してくる養殖ブリの生産地としては、舞鶴、境港、九州各地が代表的なところである。
 翌日築地で、あちこち連絡をして確認した。しかし、紛れも無い天然物のブリであった。養殖技術の素晴らしい進歩への期待は、残念ながら打ち消されてしまった。この時、こんな話が出たのである。
「今年は、鰯が大不漁のため、養殖ブリの餌となる鰯に事欠いてしまい、養殖物の脂の乗りが少し甘く、身肉が少々赤身かかっている。逆に、天然物のほうは十分に脂が乗り、身肉も白濁している程のものが多くなっている。」天然物と、養殖物との脂の乗り具合が、逆転してしまったようである。

鰤の浜締め、活け締めと熟成の旨さの採り方

 大謀網で漁獲されたブリは、その場で氷で締められる。浜締めである。その後、漁協のセリ場に運ばれ、セリの後、ただちに消費地の市場へ低温冷蔵のもと、トラック出荷される。消費地の市場では翌日の朝のセリに乗せられることになる。「追っかけ」の流通方法が採られているのだ。
 ブリは、10キロからの大型の魚である。浜締めの後、まる1日では十分に熟成されきっていない。むしろ2日目ぐらいが熟成の最盛期となり、もっとも旨い状態になる。
 平成10年の年末、佐渡のブリ漁が突然止まり、氷見から活けのブリが高値で入荷してきた。落とし網に活け込みのブリ達である。
 翌平成11年、正月明けの七草まで、浜締めのブリの入荷なし。氷見から相変わらず、落とし網の活けのブリの入荷が続く。浜締めブリの2倍程のセリ値となっている。しかし、活けで入荷し、築地で活け締めにされるこのブリ達の身肉は、ぷりぷりしているだけで、全くブリの旨みを感じられない。ブリは、活け締めにした場合、さらに2日から3日の熟成時間を必要とする。だから、旨いブリを食べるためには、活け締めにするということは、全く無駄なことであり、さらに値段までも高くつき、二重に馬鹿馬鹿しいことになるのである。そろそろ、活け作り、活け締め信仰を考え直すべきである。

鰤の天然物と養殖物との見分け方

 では、天然物と、養殖物との味覚及び形態上の違いは何処にあるのであろうか。
(イ)身肉を少し食べてみると一目瞭然である。天然物の寒ブリには、血潮の充実さを感じさせる豊かな血の香りがあり、その香りは口中をたっぷりと満たしてくれる。養殖物はこの香りに欠け、食べている最後に、ツンという舌を刺すような刺激臭が残る。さらに、化学調味料を舐めた後のような、べったりとした感触が、舌全体にまとわりついてくる。
(ロ)最近は、魚体全体の形の違いで見分けるのは少し難しくなってきている。しかし、尾ひれの形を比較すると、はっきり区別することが出来る。天然ものは、尾の付け根から45度ほどに上下に広がった、尾ひれの後方の両端を結ぶ線が、見事に半月を描いているのだが、養殖物は、その両端の先の鋭角となっている部分が、何故か上下両端ともに少し平行に切れ、半月の線も両端が少し欠けてしまっているように見える。
 では今年大豊漁年である天然寒ブリの名産地佐渡ではどのような状況なのであろうか。

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佐渡水産卸売市場 両津漁協 行
                   平成10年12月18日〜20日

 今年の佐渡は寒ブリの久々の大豊漁年を迎えている。この寒ブリは、大謀網(定置網)で漁獲される。日本最大の大謀網を持つ両津湾「白瀬」の、1日3千本からの、豪快なブリの漁獲風景の見学は、年来の願望であった。年末ながらこの好機を逃さじと、佐渡島、両津港に渡る。
 佐渡の大謀網(定置網)は、午前6時20分頃と、午後12時20分頃との、1日2回揚げられると言う。
 漁の時間は約1時間、早い時には9時ごろには漁協のセリ場でセリにかけ始められるという。だから遅くても午前9時ごろまでには漁協のセリ場に到着していなければ、セリ場の盛況と興奮ぶりは見られないことになる。
 12月18日(金)池袋発、夜行高速バス、23時30分発。帰省客を乗せ満席なり。今回の旅の寝酒は、オールドラジェジンと藤沢周平。一路新潟へ、熟睡。新潟着4時57分。佐渡汽船6時10分発、熟睡に次ぐ熟睡。明日の鋭気のために泥のように眠りこける。…8時30分両津港着。
 万全の冬支度、防寒具着用のかいも無く、日本海は南風が吹き、穏やかに凪いでいた。典型的な暖冬の気象である。しかし、本日は雨、晴れ、曇りの不順な天候でもあった。漁協のセリ場までタクシーで5分。8時40分、佐渡卸売り市場着。セリ場では、すでにセリが始まっていた。
 産地荷受け会社、「やまはる」の社長、土屋春夫氏を訪ねる。

産地荷受け会社「やまはる」
 土屋春夫氏が、一代で築き上げた両津漁協の産地荷受け会社である「やまはる」は、特にブリ、メジマグロの目利きに優れた才能を発揮していると言う。眼の色、体表の色、擦れ具合等によって、鮮度、脂の乗り、品質の良否を的確に判断し、ブリとメジマグロに関しては、圧倒的な取り扱い量をもって仕切っている、佐渡を代表する産地荷受け業者である。セリ場では、多種多様の魚が所狭しと並べられている。次々とセリにかけられ、出荷されてゆく。セリ場の前にある港の岸壁には、順次新たな漁船が入港し、荷揚げされた魚は、すぐにセリ場に並べられて行く。

魚種
「ハタハタ、ハチメ、マダラ、スケトウダラ、メダイ、ソウダカツオ、アカガレイ、ウマヅラハギ、マアジ、ツツモチ、ワカシ、ワラサ、スズキ、マイワシ、ウルメイワシ、サメ、カスゴ、クロダイ、メジマグロ、アンコウ、マダコ、ミズダコ、メガイ、エゾアワビ、ニシガイ、スルメイカ、ヤリイカ、アオリイカ、ズワイカニ、コウバコ」
 各種魚たちの、それぞれの水揚げ量は決して多くはないのであるが、魚種は豊富である。本日は圧倒的にウマズラハギが多い。「ウマズラ」の多く獲れる時には、ブリが来ないというのだが…。
 午前9時、セリ場にはまだブリが1本も並べられていない。どうしたんだ? 
 先週の1週間は、本年度の、佐渡のブリ漁の最盛期であった。連日の大豊漁で、週末には1日、3トン、3千本前後の漁があったと言う。しかし、今週は、一転して16日(水)、17日(木)と突然漁が途切れ、18日の金曜日になって、やっと150本の漁獲。先週との格差があまりにも大きく、ブリの大群は通り過ぎて行ってしまったのではないだろうか、と言う不安な噂もあった。今回は、そういう状況の中での佐渡入りであった。セリの合間に土屋氏に本日の入荷状況を聞く。本日朝一番の大謀網漁の漁獲量は、総数たったの50本だけ「落とし網」の在庫は無し。これからその50本の入荷、セリが行なわれると言う。
 入荷してきたブリは、20キロ計の秤で、次ぎから次ぎへと計られて行き、箱の横っ腹に目方が記入されて行く。入荷量の少ない時には、1本1本、目方が測られ、キロ単価でセリが行なわれるが、大漁の時には、ポンコロ売りと言い、1本単価で、大量に、一気に競られて行くという。

佐渡の大謀網(定置網)漁
 最北端の鷲崎から内海府海岸に沿って南下し、両津湾に至る海岸線には、佐渡の大謀網の全てが並んでいる。「鷲崎」「小浦」「黒姫」「和木」「白瀬」と、五ヵ統の大謀網が仕掛けられている。網は、1年の内6月、7月の本マグロ(チュウボウ)漁の時期と、11月から1月の終わり頃までのメジマグロとブリ漁の時期にだけ仕掛けられる。大謀網漁は、大勢の人手を必要とされる。佐渡では、米作を本業とする年配の農家の人達が、その貴重な人手となっている。大謀網漁の時期は、ちょうど農閑期に当たるわけだが、今後新たな若手の労働力の確保はほぼ絶望的だという。人手の不足は富山湾の大謀網漁の前例のように、やがて機械化を促進することになるのであろう。
 土屋社長が、「白瀬」の午後からの大謀網漁の同乗の許可を採ってくださった。「白瀬」の大謀網は、「加茂水産」の所有となるもので、日本最大の大謀網であると言う。いやがうえにも期待が高まるではないか。12時20分、出漁。網は漁港から、ホンの目と鼻の先に仕掛けられていた。網を揚げる漁船は4隻。それぞれの船に15名、15名、13名、2名と合計45名が同乗。たいした大所帯である。
 やがて漁労長の合図のもと、静かに網揚げが始まった。想像していた「エンヤコラ」とか、民謡の「大漁節」とかの、勇ましい合いの手の掛け合いの風景は昔の話で、今では唄すら全く出てこない。時折飛ぶ漁労長の鋭いかけ声のほかには、大きな声を上げる者も無く、それぞれの船が巻き揚げの機械を同時平行して使いながら、淡々と全員で網を上げていく。約20分、網の中に大きなアカイカが、点々と泳いでいる。ブリが見えてこない。ブリはいるのだろうか。さらに20分余、全員の期待と不安の中、残念ながらブリは1匹も入ってはいなかった。主役は、大量のウマズラハギと小魚達であった。
 「ウマヅラ」の大漁の時には、ブリは入らないという、不吉な言い伝えが見事に的中してしまった。
 本日のブリの漁獲総数は、朝漁の50本だけ。浜値、キロ2,300円から2,500円。先週よりキロ約千円ほどの高値を付けたのであった。

「落とし網」と「定置網」
 日本海側の定置網は、一度魚たちが入ってしまうと、二度と外へは出られない複雑な仕掛けがあるらしく、太平洋側の定置網と区別をして、特別に大謀網と称する。
 そして、今回の白瀬の大謀網の四隻の船のうち、二人だけしか漁師が乗っていない一番小さい漁船の後ろに、別の丸く仕切られた網が見える。この網は、ブリ漁が大漁の時、一部のブリを活かしたまま入れておくための網であり、生け簀となるのである。この網の考案、工夫、利用は富山県の氷見から始まったのであるが、佐渡でも、15年前ごろから採用されているという。在庫を残し、活けのままで出荷調整をすることが可能となったのである。この網を、「落とし網」と呼んでいる。4日から1週間ぐらい活け込みし、泳がせておくことがあるらしい。だが、この落とし網には大きな盲点があった。

落とし網の盲点

 昨年、一昨年と、大豊漁であった富山湾、氷見の「寒」ブリの中で、たまに、いい香りの失せているブリにぶつかることがあった。最初はその、意味が判らなかったのだが、いろいろ調べている内に、漁の止まっているときに出荷されてくる「活け込み」のブリらしいことに気がついた。落とし網の中のブリは、餌も食べず、あの胸のすくような、すばやい遊泳も出来ず、次第に身質が落ちていってしまうらしい。その結果として、あの素晴らしい血潮の香りが失せてしまうらしかった。落とし網の、あり得る大きな盲点であった。なお、メジマグロは落とし網に入れることは出来ない。入れてもすぐに死んでしまい、活け込みが出来ないらしい。
12月19日(土)前日の南風は、北方よりの寒冷前線の南下に伴い、朝から一転して北風に変わり、冬型の気象配置に変わった。風強く、みぞれ混じりの天気は、日本海の海を大時化の状態に陥れていった。佐渡から新潟への高速船、ジェットフォイル便は欠航。再び、ブリ日和になってきた模様である。
12月21日(月)鷲崎の大謀網に150本のブリが漁獲されたとの報が入る。以後ブリ漁は断続的にではあるが再び続行されている。暮れの正月用の需要は、充分に満たすことが出来るのだろうか。尚、12月18日(金)現在、両津湾での11月29日以来のブリ漁は、今期3億円にのぼる水揚げがあったという。
◎3年前ごろより、佐渡では、秋口から晩秋にかけ、「ヒラマサ」がまとまって獲れるようになってきた。このヒラマサが面白い。関東近辺で獲れるものの旬は、夏場から初秋頃までである。佐渡のヒラマサは、こんな時期にも、タップリと太って脂が乗っている。このヒラマサは、関東近辺で獲れるもとは、微妙に生態が違うようである。味覚、形態共に、カンパチとヒラマサの中間種の様に見える。
◎佐渡では「真蛸」のことを岩蛸という。みず蛸の雄をみず蛸と呼び、雌を真蛸と言う。雄のみず蛸はイボイボの吸盤が不揃いだが、柔らかく美味しいので、雌の2倍の値を付けると言う。では、神奈川県佐島の真蛸は、雄と雌とどちらが旨いのであろうか。帰京してからの課題である。        平成11年1月

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勘八(カンパチ)

 夏の盛り頃からやがて中秋にかけ相模湾、外房で獲れ始めると、いよいよ本格的に脂が乗り始め旨くなってくる。カンパチは関東以南九州にかけて分布しているのであるが、南に行くと共に身質が緩く脂の乗りも悪くなり水っぽくなる傾向がある。伊豆七島でも獲れ始めるのだが、身質の微妙な旨さから言うと外房産が最高品とされる。旨さのベストの大きさは3キロ前後のもので、5キロ以上になると逆に大味となり不味くなる。
 ワラサと比較すると身質は遥かに密度が高く引き締まり、決して余分な脂は乗らず、程よく品の良い旨さはヒラマサと共に高く評価される高級魚である。昭和50年代より養殖技術の進歩と反比例するように漁獲量は激減していった。最近では市場に入荷して来る大半のカンパチとシマアジは養殖ものであるというような状況となってしまっている。
 この20年前頃より、天然のワラサ、カンパチ、ヒラマサ、シマアジの上物はほとんど可能な限りトラック便で、海水の中で泳がせ、活けの状態で輸送されてくるようになった。朝の市場でのセリは、この活けの状態で取引きされ、飲食店は仲買人よって活け締めにされたものを仕入れ、その日の夜の仕事に使ってゆく。しかしこれは全く本末転倒な話であって、養殖業者達の商売上の知恵が天然物の素晴らしい魚達にも転化悪用されてしまい、あたら旨い天然物の魚をわざわざ熟成が未熟な不味い状態で食べる結果となってしまっている。青ものの魚達には活け締め後、最低1日間から2日間の熟成の時間が必要なのである。だから浜締めの状態での輸送で良く、活けで泳がせて持って来る必要などまったくない。この活け魚全盛の風潮は魚をいたずらに高値にする結果となっている。業者はお客さんの利益を考え、プロとして聡明にならなくてはならない。

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平政(ヒラマサ)

 初夏から夏の終わり頃までを旬とするヒラマサは、相模湾から外房にかけ6月ごろを最盛期として漁獲される。かっての東京ではこの頃のものを旬とし、3キロから4キロ前後のものがもっとも美味しいサイズとされた。
 2メートル近くにまで成長する魚体の幅の厚さは薄く、縦に少し扁平気味であり、身体にそって横に薄黄色の線を走らせている。脂の乗りは、青ものの魚の中では最も淡白であり身質は良く締っている。この淡白で癖のない旨さが清々しく、夏場を代表する魚の一つなのである。
 この漁場での漁獲時期は短く、あっという間に過ぎ去っていってしまうことになる。しかしヒラマサは、隠岐、壱岐、境港辺りから紀伊半島、伊豆半島にかけても漁獲されるため実際の市場での旬はもう少し長くなる。さらに夏場から中秋にかけてのマグロを追いかける三陸の久慈、普代、大船渡、塩釜の巻き網と定置網漁のものは素晴らしく、脂も乗り鮮度も良く、この時期には継続的に最高の状態で入荷してくる。
 このヒラマサの世界に近年異変が起こってきている。5年から3年前頃にかけ全国的に大豊漁となったのである。なかでも日本海の佐渡島近辺でかなりの量のヒラマサが獲れ始めたのである。この辺の漁場ではかってヒラマサはまったく獲れなかったと地元の漁師たちは言うのだが、このヒラマサが凄い。見事に脂が乗っているのである。
 魚体の色や黄色い側線は明らかにヒラマサなのであるが、姿形はカンパチに近い。脂の乗りと旨みはヒラマサとカンパチを足して2で割ったような世界を持ち、まさに三陸で獲れるものに近いようなヒラマサなのである。さらにこのヒラマサが晩秋近くまでたっぷりと脂が乗った状態で漁獲され継続的に築地に入荷して来る。近年の魚介類の生態の異変は著しく、その異変が常態化してしまっているのであるが、この佐渡のヒラマサの異変を築地の仲買人達と話していると、思わずため息と苦笑いが出てきてしまう。旬が滅茶苦茶なのである。最近この佐渡のヒラマサと、三陸産が特に高く評価され最高値をつけるようになっている。
 平成10年から11年にかけ、さすがにあの大豊漁は去って行き漁獲量は少なくなってきているとはいえ、ほぼ1年中絶え間なく各地より入荷している。こんなことはヒラマサの世界ではかってない異変なのだと言われている。

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縞鯵(シマアジ)

天然ものと養殖ものの現況
 天然のシマアジの良品がほとんど獲れなくなってしまっている。最近築地市場に入荷してくるものの99パーセント以上が養殖物、あるいは半畜養のものであるといっても過言ではない。80年代の始め頃まではまだ釣りキチ達の追っかけの対象となっていたのだが、最近では全くの夢物語となってしまっている。あまりの激減にもう既に釣りの対象にはならなくなってしまったのだ。良質のシマアジは、漁師達がたまたま偶然に釣り上げるか、定置網に入るかしたものだけが極少量入荷して来るにすぎない。だから商品価値を高めるためにも漁師たちは必死で、極力「活け」で送って来ることになる。かっての浜締めの最高品など全くないに等しい。

産地と分布
 シマアジの分布は九州から関東近辺までとカンパチの分布に重なり、意外に広いのだが、カンパチ同様に南に行くほど身質が緩くなり、脂の乗りも悪く水っぽくなってゆく。品質が落ちてゆくのである。関東近辺のものを最高品とし、特に伊豆半島・下田から外房にかけてが最高の漁場となる。伊豆七島の島まわりものは海流による生息環境が少し異なるらしく、多少品質が落ちるものが多い。10年前頃、あまりの入荷の少なさに外房・大原の産地荷受け、(株)丸大一に電話を入れた。2キロ前後のものならば無条件でキロ単価1万円で引き取るという条件をこちらから出したのである。1ヵ月にやっと1回から2回ぐらいの割合で送られて来るようになった。しかしやがてその間隔はしだいに長くなり、遂には条件の合わないものまで送られてくるようになった。産直の最大の欠点が出たのである。大原との産地直送取引きは自然解消となってしまった。
 平成11年8月、今期はまだ3回しか天然のシマアジを使っていない。しかもその中の2回は、決して外房の最高級品ではなく三宅島、八丈島の島まわりものの中の上物であった。最近出まわっているシマアジはほとんど全てが養殖及び半畜養となってしまっているからである。
 尚、天然物として入荷してくるシマアジで西伊豆近辺のもの、三重県・伊勢、鳥羽辺りからのもの、外房の鴨川近辺のものには注意が必要である。これらの漁場の周りには養殖場が多く、養殖場から逃げ出した半畜養状態のものが混じるからである。しかもシマアジは、養殖ものと天然ものとの外見が大変酷似しているものが混ざり合うため産地の確認が特に必要である。
 外房の良質な天然のシマアジは、天婦羅種となる内湾の銀ぽうと共にほぼ絶滅の危機に瀕しているようである。  

旨み
 天然のシマアジは真鯛をホンのちょっとスマートにしたような姿形をし、全体的に黄緑色で、ヒレは見事に黄色をしている。尾ひれの上下は鋭角に長く、身質は良く締り、品の良いほのかな脂の乗りは密度が高くしっとりとしている。最高時には身肉の色が琥珀色になってくる。その上品な味わいは口中にしっとりとした豊かな味わいを残してくれる。しっとりとした脂の乗りの程よさは、密度と格調の高い甘さと旨さをもたらし、ヒラマサよりは遥かに味わいが濃く深い。品の良い身肉の旨さを敢えてワラサと比較するとワラサが可哀想になってくる。
 ワラサはワラサで十分に旨いが、味わいの奥深さの次元が違うのである。またカンパチの上質な身肉と脂の乗りの旨さと比較しても、シマアジの旨さがことさらに上質で格調の高い素晴らしいものであることを思い知らされる。だからシマアジを横綱級とするならば、大関を欠いて、関脇級にカンパチとヒラマサが位置することになる。そしてこれらの魚はもっぱら刺身とすし種として賞味されることが多い。さらに平幕級にワラサがいるという具合の、絶対的身分差別の格付けになっているのである。

養殖と畜養
 7月16日、活けもののセリ場に2、3キロの外房の上物が並んだ。セリ値キロ単価13,300円なり。僕の付き合っている仲買人はセリに負けてしまったという。残念であったが、最高のシマアジを手に入れるためにみんな必死なのである。
 昭和40年代から盛んになった養殖は、勢い良く各地に広まっていった。しかし業者間の過当競争と無計画な過剰生産は経営を圧迫し、多くの業者達が倒れていった。魚に与える餌の改良と抗生物質の過剰投与による人体への影響に対する課題も大きい。
 脂の乗りのまだ十分でない成魚を捕獲し、餌を与え、太らせて出荷する畜養事業は消費地市場では評判が良く、養殖ものよりも高値がつく。しかし最近の養殖ものは改良され、畜養ものと識別することが困難なものも出てきているという。さらに豊後水道の畜養は素晴らしく、餌の改良が進みハマチ特有の舌を刺すような味も臭みもほとんど無いまでになっているという。青ものの魚の養殖・畜養事業に大きな力を入れている三重県魚連、香川県魚連は、三浦半島の三崎などに前進基地の大きな生け簀を持ち、産地より船で活けの状態で運び込み、三崎でワンクッションを入れ、市場の需要動向を参考にしながら、さらに船便で活けものを大量に築地市場に搬入して来るという。まさに養殖、畜養魚時代の幕開けに対処した適切な戦略を展開してきている。      平成11年8月

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