仕入の考え方、姿勢、旨さの捉え方

仕入
  すし屋が最高のすしを握りたいと念じた時、
  最後の勝負は最高に旨い魚を、
  どれだけふんだんに使えるか! にかかっている。


春美鮨にとって、築地市場での最高の魚の仕入とは

 仕入は、店の経営方針と力量によって、様々な違いを見せているものであるが、以下が春美鮨の仕入に対する考え方の基本姿勢である。
(1) 最高にいい魚=旨い魚の仕入の追求のためにはなんでもヤル。
(2) 経営、商売を優先させぬこと、美味を最優先させ、逃げないこと。

築地中央卸売市場
 世界最大規模の魚市場であり、日本及び世界中から多種多様の魚介類が入荷してくる。
 東京という大消費地を背景に持ち、あらゆる種類、品質の魚介類を大量集荷、大量販売する能力を持っている。「セリ値」も他市場より割高になる傾向が多く、価格至上主義の各産地、各漁協の魚介類は、とりあえず築地をターゲットに出荷されてくる。特に高級魚は、殆ど全て集中的に入荷する傾向が強い。
 日本中の全ての魚が、ピンからキリまで一年中、間断なく入荷してくる。この築地卸売市場で何回ものフルイをかけ、何回ものフィルターを通し選別してゆけば、最高品質の旨い魚を入手することができる。よく言われる仲買人のセリフで、「海幸橋を渡ったらどんな『嘘』でもついてよい」「仕入はダマされるヤツが悪い。勉強が足りないんだ!」 と言うのがある。だから築地は、能力さえあれば、最高のゲームを楽しめる場所となり、他の地方卸売市場ではなしえない、夢のような仕入の醍醐味を味える魚市場なのである。

春美鮨の魚の選別方法と旨さのとらえ方

 以下の1〜11は、33年間にわたる築地市場での仕入通いの中で感じとり、疑問に思い、勉強させられ、習得し、追求してきた魚の選別と旨さのとらえ方の概要である。
1、魚介類の正確な区分と識別 2、旬の「ずれ(移行と変動)」と新たなる旬の「特定」 3、鮮度と旨さのとらえ方 4、産地と漁場 5、魚の旨さのための最適の量目 6、脂の乗り 7、魚の雌雄 8、漁法 9、魚の格付け 10、値段 11、輸送
 
1、魚介類の正確な区分と識別
 これは市場で魚を選別、仕入する際の基礎知識であり、前提条件でもある。
 巷間での伝聞、慣習などによる勘違いや、誤認されていることが多々あり、重要事項として再確認する必要がある。
◎正確に区分、識別された魚は、それぞれ、旬、味、値段、料理法が明らかに異なってくる。
例 「鮑」の種類と識別…クロ鮑、マダカ鮑、メガイ鮑、エゾ鮑
  「真鯵」の種類と識別…平鯵、ノドクロ鯵、両者の混合種
例 出世魚の名称と旨みの変化、及びその識別
  「小肌」…新子、小肌、ナカズミ、コノシロ
  「ワラサ」…ワカシ、イナダ、ワラサ、ブリ(ハマチと言う呼称は、関東ではワラサのサイズの養殖物のことだけにつかわれる)
  「本鮪」…メジ鮪、チュウボウ鮪、シビ鮪

2、旬の「ずれ(移行と変動)」と新たなる旬の「特定」
 全ての魚介類は春夏秋冬、それぞれに最も味が乗った旨い旬の時季を持っている。しかし、世情よく一般的に使われている「旬」には、微妙な意味合いの違いがある。
 旬には、(1)季節的先(はし)りの旬 (2)旨さの盛(さか)りの旬 (3)漁獲量的盛りの旬がある。

季節的走りの旬

「旨さの盛りの旬」を先取りし、実質的旨さよりも、やがて来る季節の予感を愛でるために、大変な労苦と費用、時間をかける、いかにも日本人的な感性の旬である。
例 新子、初鰹  
 実質的旨さの旬は、「旨さの盛りの旬」である。脂が乗り、旨み、甘みが加重され、身質が最も充実する時期である。

旨さの盛りの旬

例 産卵に備え、餌をたっぷりと食べ、肝臓が肥大化し、卵巣、精巣の発生、成長の過程期…平目、鯛(晩秋から春先)
例 産卵後、水温の上昇と共に急激、活発に餌を食べ、身質が戻り、旨みが増し、脂の乗った頃…初夏から夏にかけての平鯵
例 水温の低下と共に餌をしっかり食べ、身質を充実させて深場への移行時…晩秋の落ちキス、晩秋の車海老
例 脱皮に備え身質を充実させるもの…晩秋の脱皮直前の子なしシャコ
例 卵巣の旨さを楽しむため、身質の旨さを従とするもの…4〜6月頃の小柴のシャコ

漁獲量的盛りの旬

 漁獲量が最も多くなる時期を旬とする(一般の釣り人達の言うよく釣れる時季である)。
例 産卵のために沿岸、あるいは岸辺に近づき、大量に漁獲されるもの。しかし「旨さの盛りの旬」の時期は通り過ぎていることが多い…春先から初夏のサヨリ、夏場の白キス
例 餌を追い、群をなして南下、又は北上し、猛然と餌を食い込み肥大化し、脂の乗りきったもの。「旨さの盛りの旬」と一致することが多い。…鮪、戻りカツオ、サンマ、マカジキ

旨さの盛りの旬と漁獲量的盛りの旬の一致

例 産卵後、水温の上昇と共に、猛烈に食欲を増大させ、身を太らせ、脂を乗せ、「旨さの盛りの旬」に入って行く。この頃、漁獲量も最盛期を迎え、「漁獲量的盛りの旬」をも一緒に迎えることになる…初夏から夏にかけての真鯵
◎卵巣、精巣の成熟、産卵期にあたる「漁獲量的盛りの旬」は、既に身質の旨さの最盛期を終了していることが多い。

旬のずれ(移行、変動)

 近年、海水温の上昇、海流の変化による生態系の変化は、ほとんど全ての魚介類に旬の異変をもたらしている。 (全ての魚介類の旬の異変〜慢性的異変〜移行〜新たなる旬の特定)

旬のずれ(移行、変動)の原因

(イ)地理的分布の変化と拡大(漁獲量の激減…漁法と流通の進歩による)
 小肌の産地は、20年前頃まで、東京湾内湾、静岡県舞阪、愛知県三谷あたりが主な漁場で、漁獲量も多く、築地への入荷はこれらの産地のもので、充分に満たされていた。その後これらの産地での漁獲量の激減と、他産地での漁法、 流通の画期的進歩は、有明海、七尾湾、瀬戸内等からも空輸、トラック便により次々と、最高の鮮度での入荷を可能にした。その結果、既成の旬暦では、小肌の旬は全く読みきれなくなってしまった。佐賀県有明海と千葉県船橋では単純に、地理的条件だけを見ても、約1ヵ月余の旬のずれが生じる。本来、旬は産地と共にあるものであり、ひとくくりの全国共通の旬などはあり得ない。
 この旬の混乱を解決するために、東京でのかっての標準的旬(地域的、文化的、歳時記的旬)と、各産地での旬を別記表示する必要性が生じてきている。
(ロ)海水温の全国的上昇と海況の変化
 海水温の上昇、黒潮の蛇行の変化等により、全ての魚の旬が1ヵ月余ずれてしまっている。
(ハ)漁期を限定されている魚介類の漁期(禁漁、解禁)変更の必要性
 未だに各地、各漁協において、昔からの慣習的な漁期日程の定着が多い…アワビ、赤貝、ウニ。
 千葉県外房のアワビ(クロアワビ、マダカアワビ、メガイアワビ)は、4月下旬から9月末頃までが漁期であるが、4月末の解禁時には、いまだ水温があがらず、身が痩せ、良品が出てこない。逆に、9月末頃には抱卵の準備のために、身質の太った最高品質のあわびが獲れる。しかし、ちょうどこの頃に禁漁期が始まってしまう。漁期の改定が必要で、旬と漁期とのずれは、密漁横行の原因にもなっている。

3、鮮度と旨さのとらえ方
   「締める」と言うこと(日本料理の偉大なる知恵と文化)
 (イ)活け造り、(ロ)活け締め、(ハ)浜締め、(ニ)野締め、(ホ)自然死

(イ)活け造り

 身が活きていて、まだプリンプリンの状態の魚をすばやく刺身にすること。
「プリンプリンの鮮度=海から獲りたての最高の鮮度の美味」の盲信的錯覚が活け魚ブームを引き起こした。しかしこの旨さのとらえ方は、ピチャピチャの冷凍、輸入魚の切り身、欺瞞的干物魚等、絶望的な不味さの対極にある旨さとして人気が出てきたと言える。
「活きている魚=美味」の図式は貝類にだけは当てはまるが、他の全ての魚は、瞬時に締めてから、一定の時間経過によって、はじめて身質が熟成され、旨みの発揮が増大、加重される。この所要時間は、魚種とその量目(サイズ)、取り扱い方、温度等により大きな差が生じて来る。
「プリンプリンの食感=最高の美味」はもったいない味覚の錯覚である。熟成時間が全くないため、総合的旨さの発生に欠け、個々の魚の旨さの持ち味も発揮されず、全ての魚の旨さがまるで同一化してしまうことになる。
◎養殖魚を食べる時は、活け造りにすると養殖魚特有の嗅みが逆に発揮されず、上手な食べ方となる。この料理法は、大衆店で極上の鮮度と、プリンプリンの食感だけを楽しむ養殖魚(ハマチ等)の活け造りブームに火を付けた。

(ロ)活け締め

 夕食時に食す時間帯をターゲットにし、熟成の所要時間を計算してさかのぼり、朝の市場で、一定の時間に、包丁と針金で魚を一瞬にして締めることを「活け締め」と言う。産地から消費市場へ魚を活かして搬入すること、魚の完璧な締め方が考え出されたこと、熟成の所要時間の計算と逆算をかなり正確にできるようになったこと、などにより旨さのとらえ方が、さらにも増して自由自在となった。各々の魚の個性、持ち味の旨さを十分に発揮させ堪能できるようになった。

活け造り、活け締めのため、活け魚の状態での取り扱い運搬の功罪

◎白身の魚は漁獲後、産地で2〜3日、生け簀で泳がせたほうが身質が自然時に戻り、美味になると産地業者達は言う。
◎出荷調整、売れ残り等で生け簀に留めすぎて身が痩せることがある。
◎魚を水ごと運ばなくてはならなくなり、設備投資、運搬費用が高くつき、仕入値が高値となる。
◎産地業者は、高値で売れるため、「活け」で出荷する必要のない魚まで「活け魚」として出荷してくる。最近、高級魚の入荷は殆ど全て種類を問わず、「活け魚」扱いが圧倒的に多くなってきている。いたずらに魚を高くし、ムダが大きい。

(ハ)浜締め

 産地で庖丁と針金、さらには大量の氷で瞬時に締め、消費地へ出荷することを浜締めという。
 締めた魚は「追っかけ(今日とれた魚を、トラック又は空輸便で消費地の、翌日の朝のセリに間に合わせるように出荷すること。遠隔地からでは大変なコスト高となるため、高級魚が優先される。例えば大分県の関鯖、関鯵。淡路島の松栄丸の鯵。東京湾内の魚等)」で出荷、翌朝、消費地市場でセリにかけられ、魚の種類にもよるが、その日の昼から夜の時間帯を旨さのターゲットとする活け魚の締め方を「浜締め」と言う。
◎温度管理のもとで死後硬直させない工夫が必要。
◎浜締めの旨さ、長所を最大限に利用し、狙って出荷してくる産地と魚。
例 大分県佐賀関…関鯖
例 兵庫県南淡路島「沼島」の鯵…松栄丸の鯵
◎締めてからの熟成所要時間が1日半〜2日以上の魚は、産地で締めた方が経済的にも合理的である(海水の余分な運搬費用と設備投資も不要となる)。
◎浜締めによる時間経過(1〜2日)が、旨さの熟成に適している魚。
例 シマアジ、カンパチ、ヒラマサ、ワラサ…浜締め後2日目位で熟成
例 シビマグロ…浜締め後5日目位から熟成
◎春美鮨では、築地で「活け締め」仕入しても、熟成時間2日位を必要とする魚は、その時間を充分に熟成させ、「浜締め」表示にする。
◎高級白身の平目と真鯛は、近年その最高品はほとんど全て「活け」で泳がせて出荷されてくる。しかし実際は、最高品質のものでありさえすれば、浜締めはさらに充分に美味なのである。
◎産地利益優先=高値=消費地での美味の力点の変化(味覚的旨さよりも、歯ごたえの旨さが優先される傾向が強い)   

(ニ)野締め
 
 網漁等で大量に漁獲される大衆魚は漁獲中に「あがり」が出やすく、個々庖丁で締めるのも不可能であり、漁獲後ただちに氷で締める。浜締めであるが、すぐに死後硬直を起こし、消費地市場では硬直がとけ、身がゆるんだ状態で入荷することが多い。2〜3日を、鮮度の許容範囲とする締め方である。生鮮魚としては、最も一般的で入荷量も最も多い。
例 カツオ、ブリ、イカ類、全ての大衆魚

(ホ)自然死

 手当の悪さと放置によるもので、死後の劣化が著しく、身のゆるみも早く、不味くなりやすく、傷みも速い。
◎網漁、釣漁ともに漁師は最低でも、氷で締めるので、放置による自然死はほとんどあり得ない。
たまにある不意の大漁により、手当ての遅れてしまった魚は超安値で取引されることになる。
◎活締め、浜締めしたものでも、日時の経過次第で自然死のものの味と同化してしまう。

魚を「締める」とは? そのテクニックと効用

包丁と針金による締め
 活け魚の頭部から、あるいはえら下の延髄と、尾の付け根の両方に、きっちりと庖丁を入れる。さらに針金を脊椎下の急所の穴に沿って突き通す。びんびんの魚が一瞬にして即死する。これを「締める」という。瞬時に締めることが肝要である。針金を突き通す「締め」のテクニックは和歌山県白浜の真鯛のために、20年前頃、工夫発見されたものだと言われる。その後、瀬戸内の明石に伝わり「明石の鯛」の価値をさらに高めた。「締め」の究極的テクニックである。

締めの効用
 瞬時に締めると、魚が暴れず苦しまずに往生でき、不要に不味くならない。「締め」を完璧にすると死後硬直の発生を止めることができ、今流行の美味の最大要件である、歯ごたえの食感が長く持続する。さらに、その間に熟成が行われ、完熟までの時間も長くさせる。本来、消費地が産地と地理的、時間的に遠隔の場合、特に有効な手段として利用されてきた。

締めと温度管理
 温度管理をたくみに行うと、食べる時間帯まで死後硬直が発生しない。硬直し、硬直が解けると同時に急激に身質の締まりがゆるみ、熟成進行、さらには劣化へと進むのだが、 硬直がないと、熟成所要時間をさらに長くさせ、劣化を遅らせることができる。
◎浜締めの魚の中でこのテクニックを最もたくみに利用したのが、佐賀関の関鯖、関鯵である。午後から夕方にかけて庖丁で1匹ずつ締め、冬場は箱の中にホンの一握りの大きさの氷をたった一個入れるだけの温度管理で、空輸の「追っかけ」で出荷をする。築地で朝、我々の前に硬直もせず、プリンプリンの状態で登場する。これはすごい。驚異だ。これは究極の「浜締め」のテクニックである。しかし、鯖、鯵という魚の種類にとっては、この状態では未だ熟成の旨さには時間が早すぎ、さらに半日から1日の熟成時間を必要とする。
 締めるという技術の進歩は、熟成の旨い食べ頃を、どの時点にとるか、料理人は熟成の旨さのとり方の能力を問われることになった。
◎歯ごたえの食感と旨みの熟成の調和、美味の瞬間は短い。最近では、美味の力点は歯ごたえの強さの方に置かれる傾向が強い。

「締め」の別法

 要は瞬時に殺すことであり、
(イ)生きている内に、満々の氷水の中に一気に落す。(例)松栄丸の鯵
(ロ)固いもので頭部を強打する。等がある。

魚の鮮度と美味さのとり方と値段
 一様ではないが、活け造りブームのために、不要に魚の値段が高騰している。美味で鮮度の高い魚を安価に供給するためにも、不要なことは止め「浜締め」の知恵を再認識する必要がある。
◎「活け締め」「浜締め」のテクニックのとらえ方は、日本人の魚料理に対する究極的文化であり、凄さである。

理想的「浜締め」のターゲットのとり方
(イ)明石の鯛(1.5キロ前後)
 1.5キロ前後の最高品は、脂もしっとりと乗り、身は琥珀色をしている。霜皮作りにすると真鯛独自の朱色の美しさと皮めの旨さも愉しむことができる。かっては午前3時ごろに「明石の魚の棚市場」で締められ、約16時間後、夜の時間帯をターゲットとして京阪神地方の料理屋に向けて出荷された。料理屋では、熟成度と歯ごたえのバランスは最高の状態であるとするも、最高品質のものは、まだこの時間帯では、往々にして歯ごたえの旨さが少し勝っていることが多い。近年では朝7時前後に、締めるようになっている。
(ロ)明石の鯛(2〜3キロ前後)
 2キロ以上、特に3キロ位になると16時間前後では旨み、甘みが充分にできらず、はるかに歯ごたえの方が強く勝ちすぎる。このサイズの最高ものだと、翌日の昼から夜にかけてが、最高の熟成のときになることが多い。この大きさになると皮が硬くなり、霜皮作りは出来なくなる。(明石の鯛も最近は不漁で、最適のサイズと数量が揃わず、応々にして、サイズの大きいものを使用することがあると言う。又、良品のほとんど全部が消費地へ活けで運ばれるようになった)
(ハ)関鯖
 現地では活け造りにして、生で刺身、すしにする。しかし、これは論外で関鯖がかわいそうだ。熟成時間ゼロ、旨み少なし、プリンプリンしているだけ。いくらなんでも関鯖の持ち味が殺されてしまっている。
 当店では「浜締め=空輸便=追っかけ」の関鯖を、生食としては使わない。塩と酢で締め、〆鯖としてから刺身、すしにする。人気に乗り、一年中出回る不思議な鯖であるが、当店での使用時期は、1月末頃から3月末頃まで。この時期が脂が乗り旨くなる。関鯖は「寒鯖」であり「秋鯖」ではないからだ。
(ニ)松栄丸の鯵
 特製の氷による浜締めは絶妙で、出荷の翌日の夕〜夜、身質は適度に締まり、小魚にもかかわらずかすかな食感と共に、平鯵特有の甘み旨みが見事に熟成されている。

◎「締め」のテクニックの完成によって、旨さの熟成は自在になったのだが、総じて歯ごたえの美味の嗜好が強く、熟成の頂点の手前、歯ごたえが少々勝る状態での美味のとり方が最近の主流となっている。
◎平目等、活け締めの白身の魚の薄造り、ポン酢も美味だが、最高の浜締めの熟成のヤツ(28時間〜35時間経過、旨みが充分に出きり、かすかな歯ごたえも残す)を少し厚めにたっぷりと握ったり、あるいは又、チョイと小さく厚めに切ってやる。上等なワサビと醤油、又はポン酢を付けて、しみじみ噛みしめると、淡泊な味わいの中に、意外と懐の大きな旨みが秘められているのを思い知らされる。浜締めなればこその、白身魚の旨さの真髄を楽しむことができる。

4、産地と漁場
 産地は仕入情報の宝庫であり、原点である。産地、漁場へ積極的に出かけることにより、多くのことを学ぶことが出来る。いい女に惚れると、あることないこと、たまたまのこと、全てを知りたくなる。揚句、出身地までが全く個人的に輝いて見えてしまうものだ。しかし、魚の産地と漁場とは、そういうことを言っているのではさらさらない。
 「いい魚=旨い魚」の選別にとって、産地は最も重要な条件の一つなのである。仕入というものは、毎朝市場で、全国から入荷する全ての魚を、それぞれ比較対照、取捨選択しているのではない。諸々の事情、条件を勘案しながら、まず第一に、産地を指定することにより、その日要求する魚に取りあえず、ほぼ一直線にたどりつくことができる。その選別された産地の魚の中から、さらに選別のフルイをかけるのである。

最高の産地とは
 魚の最高の産地とは、その魚にとっての最良の生息場と漁場をもち、最良の漁法で、最良の流通手段を用いて、最良の状態で、消費市場に入荷させる能力を持っている産地のことである。
◎流通手段の革新的進歩(空輸、トラック便)により産地間の鮮度の格差はなくなり、全国どこからでも、同一鮮度で入荷可能となった。これは日本人の食生活にとって、画期的な出来事であった。
◎鮮度のハンデが同一となると、各地の魚は、実質的旨さの比較対照の競争となった。

(イ)旨い魚の指定産地と旬(同一鮮度ならば、どこの産地が、いつ一番旨いか?)
蛸 神奈川県佐島 5〜7月頃、11月〜1月頃(本領は5〜7月の夏蛸)
  兵庫県、明石 5〜7月頃、11月〜1月頃(本領は5〜7月の夏蛸) 
シャコ 神奈川県小柴(柴漁協) 子持ち4〜6月頃、子無し11〜12月頃 漁獲量激減中
秋鯖 神奈川県松輪 9〜11月頃 大不漁年中
   和歌山県箕島 9〜11月頃 大不漁年中
寒鯖「関鯖」 大分県佐賀関 1〜3月頃 不漁年中
真鰯 千葉県船橋、金太郎イワシ 4〜7月頃、9〜11月頃 大不漁年中
穴子 東京湾内湾(品川、羽田、金沢八景の漁師もの) 5〜8月頃 (しかし一年中美味)漁獲量激減中
ウニ 北海道(道南〜道東) 1月〜5月頃、(漁期)11月頃〜5月頃
   下北半島(北端部) 1月〜5月頃、(漁期)11月頃〜5月頃 漁獲量激減中
特大マダカアワビ 千葉県(外房、大原) 6月〜10月頃、(漁期)5月上旬〜8月末
           5年間禁漁中(平成6年5月〜11年4月まで)大激減中
         岩和田 6月〜10月頃、(漁期)4月下旬〜9月末 大激減中
メジマグロ 新潟県佐渡、富山県氷見 12月〜2月頃
鰤 新潟県佐渡、富山県氷見 12月〜1月頃
天然帆立貝 北海道(根室、野付半島) 12月下旬〜5月中旬

(ロ)指定産地の独自の締め方と最優秀加工技術
1.「鮮度と旨味」理想的浜締めのターゲットのとり方。
2.小柴(柴漁協)のシャコの茹で方と出荷方法。
3.富津のとり貝の火入れ、お歯黒と艶の出し方。
4.九里浜のタコの茹で方。

弊害
 指定産地に対する、産地業者の裏切り
1)ウニの世界では産地加工業者による出荷調整や、品質劣化防止のために薬品の過多な使用があり、あたら旨さが減殺されている。
2).鮮度の維持、保全、流通の進歩は産地での出荷調整、消費地での荷受け、仲買の売り残しを安易に日常化させ、逆に鮮度と旨さの劣化を生じさせている。
3)三陸産の赤貝(閖上、渡波漁協)及びアワビ、みる貝の産地は、全国的に貝に不要に海水を飲ませ、目方の増量を計り、品質を劣化させている。
4)指定産地名を騙り、他産地の安価な魚を高値で流通させている。(例)毛ガニ、フグ

5、魚の旨さのための最適な量目
 量目(サイズ、大きさ)の違いによるキロ単価の大きな格差
 魚は各々、旨さの最適、最高のサイズ(量目・年齢)があり、そのサイズのものがキロ単価では最高値で売買される。
平目、星鰈、真子鰈 2キロ〜3キロ(1キロ位の平目とでは、キロ単価2倍位の差がでることがある)
蛸 2キロ〜3キロ(1キロ位の蛸とでは、キロ単価約2倍位の差が出ることがある)
特大マダカアワビ 1キロ以上(0.6キロ位までのマダカアワビの約2倍位のキロ単価)
◎「サイズ」は旨い魚の選別に重要な条件の一つで、旨さと仕入価格に大きく反映する。一般に案外知られていないので、仕入原価を安くするための一番逃げやすいポイントとなってしまっている。この辺をきちっと守っているか、逃げているかが高級店と大衆店との大きな格差となる。

6、脂の乗り
 魚には各々特有の脂の乗り具合いがあるが、脂の乗りは、現代では旨さの最重要条件となっている。
例 マグロ…全ての評価は、脂の乗り具合によって決定される。

7、魚の雌雄
 雌雄の違いによって、旨さのとらえ方の異なるものがある。
◎身肉の旨さを選ぶときは、雄の方が甘みがあり旨い。
例 シャコ、蟹、アオリ烏賊、鮭、蛸。
◎卵の旨さを楽しむときは、雌を選ぶ。
例 シャコ、蟹、鮭。

8、漁法
 漁師は魚の種類と漁場の状況により、それぞれの魚に最も適した漁法で漁をする。同一魚種でも、産地によって漁法が変わる。
種類 一本釣り、延縄漁、定置網漁、巻き網漁、底引き網漁、刺網漁他。
◎漁法によって魚の取り扱い方が異り、魚体の保全と鮮度に影響する。高級魚は相対的に漁が少く、一本釣、延縄漁、定置網漁が無駄がなく効率も良く、鮮度の保持にも適している。
 大衆魚は巻き網漁、底引き網漁で大量に獲るので、魚体の保全と鮮度の維持が難しい。
◎一本釣漁 鯖…佐賀関、松輪、箕島。真鯛…明石、佐島、鴨居。真鯵…沼島のアジ。
      白キス…葉山。平目…原釜、津軽海峡、外川、佐島。
◎漁法によって魚の品質にかなりの差が生じ、良質のものは値段も高く売買されるので、漁法の確認は重要である。

9、魚の格付け
 全ての魚貝類は、民族、歴史、文化、風土、漁獲量、美味等の要素によって最高級魚、高級魚、大衆魚に区分され、その差は値段に明確に反映されている。
◎最高級魚(ホンマグロ、真鯛、星鰈、トラフグ、平目、車海老、新子、ウニ、縞鯵、赤貝、ミル貝、マコ鰈、アオリ烏賊、鰤)…最高値。旨い。しかし美味の条件を満たさず、冷凍、輸入等で手当が悪く、脂がなく水っぽいものや、養殖魚は安値。不味い。
◎高級魚(カンパチ、ヒラマサ、メジマグロ、鯖、真鯵、甘鯛、スミ烏賊、サヨリ、白キス、穴子、シャコ)高値。旨い。しかし美味の条件を満たさず、冷凍、輸入等で手当が悪く、脂がなく水っぽいものや、養殖魚は安値。不味い。
◎大衆魚(鰯、秋刀魚、コノシロ、スルメ烏賊、イナダ、蛸) 安値。旨い。しかし美味の条件を満たさず、冷凍、輸入等で手当が悪く、脂がなく水っぽいものは底値。不味い。
◎高級魚でいい魚は、値段は高いが見事に旨い。高級魚で、安くて旨いはあり得ない。あれば必ずなんらかの美味の諸条件に欠けている。
◎大衆魚のいい魚は安くて旨い。
◎最高級魚(真鯛、星鰈、クロマグロ、新子、シマアジ、アオリ烏賊、トラフグ等)の旨さは、味覚上の訓練と能力を要求され、背景に食の文化を持っている。イワシ、サンマの美味と新子、星鰈、トラフグの美味を、同列で比較してはならない。
◎最近は漁獲量の激減と流通の劇的進歩とにより、大衆魚が高級魚に変身することがある。高級店も大衆魚のいい魚は積極的に使うようになった。

10、値段
 魚の仕入値は諸々の事情、条件によって、多々、乱高下する。最近の数字至上主義の商売のやり方で、原価率を考えすぎると、いい魚は手に入らない。一時的高騰は、仕事の楽しみのために目をつぶり、追いかけなくては面白い仕事は出来ない。暴騰するものには新子の初入荷時、特大マダカアワビ(びわ貝)、新イカの初入荷時、残暑の頃の活アオリイカ、初夏から夏場の星鰈等があるが、この凄い魚達には、泣かされる価値があるじゃあないか。

11、輸送
 トラック便、空輸便の登場により、輸送は飛躍的に進歩した。いかなる遠隔地からでも、半日で入荷が可能となったのである。各地の高級魚にとって、鮮度の競争は平等のスタートラインとなり、魚の実質的な旨さの比較対照、選択の競争となった。そして、新たなる名産地、いい魚達が次々と登場してきた。…松栄丸の鯵、関鯖、城下鰈、野付の帆立貝。


追記
 いい魚を仕入れられる店の条件。
(イ)毎朝、築地市場へは親父自身が仕入に行くこと。
(ロ)魚の「目きき」に優れていること。(不断の勉強努力を怠らないこと)
(ハ)毎日必ず一定の品質、一定量の仕入ができること。自分の店への、仲買人による特別の魚の推奨は、いいものであれば必ず受けること。(店に販売能力のあることを要求される)
(ニ)いい魚は高値だが、高値に負けて逃げないこと。
(ホ)値引き交渉はせず、適正マージンは正当に認めること。(相互利益)
(ヘ)すし屋にとっていいお客さんとは、真面目に、沢山食べてくれて、毎日の一定量の魚の回転に協力して下さる方で、魚の味がよく分り、お店を大事に、かわいがって下さる方(ずいぶん虫のいい話だ )。これは又、築地の仲買人とすし屋との関係でも全く同じことが言える。
◎店の魚介類に対する知識、情報、旨さのとらえ方は、全て公正に的確に公開明示する。一方的傲慢さと怠惰は食の世界の喜びの共有を台無しにする。その共通の認識のもとに、同一土俵上で、お客さんと店は対等に、美味の世界を楽しむことができたら、素晴らしいと思う。     平成10年3月

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春美鮨で握る魚介の主要産地と旬、及び旬の移行

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